言葉…08

「かわいい…真夏さん、可愛過ぎます」
「だ…っめ、高遠…ぁあ…、っん、許して…っ」
 立場が逆転して、相手の肩をきつく掴んで今度は僕が懇願する破目になる。
 圧迫感がすぐに加わって、高遠の指が増やされたのだと分かった。
 彼の二本の指で敏感な前立腺を撫でられ、指の抽挿を繰り返されて内壁を擦られ、堪え切れずに涙が頬を伝った。
「あ…あ…っも…い、イク…」
 快感が強すぎて抵抗するのも忘れ、息を弾ませながらそう零すと
 高遠は指を緩やかに回転させ、執拗に前立腺の膨らみを擦り上げた。
 瞬間、頭の中が真っ白になって喉が反り、全身を震わせて後ろだけで達してしまう。
 強すぎる快楽に陶酔している僕の中から高遠の指がゆっくりと抜かれて、ついでに自分の指も抜かれる。
「もう、我慢出来ません。…挿れますね」
 高遠は僕の腰に腕を回して抱き、ゆっくりと持ち上げると、溜め息混じりに囁いた。
 彼の雄が蕾に触れると、強い期待感で身体が震える。
 だけど僕は高遠の行動を許さず、雄々しいソレが入って来る前に言ってやった。
「やだよ、高遠」
「ま、真夏さん…?」
 小さな声で囁くように言ってやると、高遠は少し瞠目した。
 こんなギリギリで拒まれる男の心境を思ったら、可笑しくて可笑しくて、たまらない。
「挿れちゃ、やだ。」
 ぴしゃりと言い放つと、高遠は顔を顰めた。
 怒り出すのかも知れないと考えて、身体が余計に熱くなる。
 じっと高遠に視線を注ぐものの怒り出す気配は無く、数秒ほど間を置いた上で、彼は口を開いた。
「お願いします…どうか、挿れさせてください」
 衝撃的な言葉を耳にして、心臓を鷲掴みされたみたいに驚いた。
 いつも余裕そうに微笑んでいる高遠が、今は懇願するように僕を見下ろして、そんな情けない科白を口にしている。
 暴力的で冷酷なヤクザの癖に、情け無い科白を口にして、ガキの僕に懇願している。

 ―――――僕を、欲しがってくれてる。
 そう考えるとひどく興奮して、懇願しながら見下ろされる事に優越感を感じて、ぞくぞくした。

 求められていると思うと、嬉しくて堪らない。
 あの日僕を置いて行った大好きだった人が、今、此処に居て……今だけは、何よりも僕を求めてくれている。
 そう思うと嬉しくて嬉しくて、胸の奥が、ひどく熱くなった。

「やだよ…絶対、だめ。だってさっき、僕の言いつけを守らなかっただろ?もし挿れたりしたら、今度こそ……嫌いになる」
 顔を近付けて残酷な言葉を吐き捨て、僕はくすくすと笑う。
 此方を見下ろしている彼の唇を軽く舐めてやると、端整な顔が顰められた。
 昔は一度も見たことが無いその表情を、僕はとても気に入っている。
 この顔を見たいが為に焦らしたりはするけれど、挿れるのを拒んだのは初めてだ。
 もう一度僕を欲しがる言葉を口にすれば、言葉に出して僕を求めてくれれば、許してやろうと思いながら高遠の唇を軽く咬むと、持ち上げられていた腰が唐突に下ろされた。
「な…っ、ちょ…あっ、ああぁ…!」
 そのまま腰を押し付けられ、高遠の熱く太いものが狭い内壁を押し広げるように、強引に侵入して来る。
 抵抗する間も無く、潤滑液で潤った内部はすんなりと、高遠のソレを奥深くまで迎え入れてしまった。
 高遠の雄を奥深くまで埋め込まれると、頭の芯から痺れるような甘い感覚に襲われる。
「…ど、して…?」
 だけどそれに素直に身を委ねられる筈も無く、僕は震えた声で尋ねた。
 嫌いになる、と口にすれば、必ず僕の言いつけを守って来たのに。
 それなのに言いつけを守らず、勝手に挿入をしてしまった高遠が、理解出来なかった。
「何、で…どうして?嫌いに…なって、欲しい…の?」
 答えが気になってどうしようも無く、急かすように言葉を続かせる。
 けれど高遠はすぐには答えず、繋がったまま僕の身体を抱き支えて、ゆっくりと慎重にシーツの上へ倒した。

「全く、困った人だ。ここまで焦らされたら……我慢出来る訳、ねぇだろうが」
 口調が変わった高遠を前にして、僕は心底どきりとした。
 声音も普段よりずっと低くて鋭く、迫力が有る。
 よほど怒らせない限り、高遠は僕の前でこの口調にはならないから、この声が僕に向けられるのは本当に久し振りだった。
 すごく恐いけれど、まるで僕の心を縛って離さないような、この低い声と口調が好きで堪らない。
 だけど普段の、穏やかで下手に出ている高遠だからこそ調子に乗ってしまう僕は……今の口調になった彼の前では、何も出来無い。

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