言葉…09

「真夏さん、どうしました?震えていますね…」
「ぅあ…、ッん…」
 高遠はすぐにいつもの口調に戻って、僕の平らな胸へ手を這わせ、乳頭を摘んで緩くよじった。
 それだけでも全身が粟立って、反った喉が震える。
 興奮が強まって身体の奥が甘く疼いたけれど、僕はかぶりを振る事で理性を保った。
「き…らいに、嫌いになっても…いいんだ…?」
「構いません」
 きっぱりと返された言葉に、目が見開く。
 高遠は今まで、僕が嫌いになると口にすればそれを恐れて、言いつけを守って来たのに。

「貴方は、あの日から私を………憎んでいるのでしょうから」
 目を伏せて薄く笑う高遠の笑みが、ひどく自嘲的なものに見えて、胸が痛んだ。
 あの日とは――――きっと、僕を初めて抱いた日の事だろう。

「真夏さん、力を抜いてください」
 優しく穏和な声で諭すように言って、緩やかに律動を始める。
 慎重に、慣らすようなその動きは、あの日と変わらない優しい行動だった。
 緩やかに引いては、慎重に押し上げて来るその動きがもどかしくて、僕は堪らずに相手を呼んだ。
「ね……高遠、ねぇ…っ」
「どうしました?真夏さん…、」
 分かっているくせに、分からないフリをして微笑む高遠が、少し憎らしく思える。
 ねだるように相手の首へ両腕を絡ませてみるけれど、高遠は動きを速めてはくれない。

 ―――もっと、激しくして欲しい。
 直球的な欲望を口にするのはひどく恥ずかしくて、もどかしさに身をくねらせた。
 それでも高遠は相変わらず、緩やかな律動を繰り返していて……それに堪え切れず、唇を開く。
「高遠…っあ…ぁ……お、願い…っ」
「何です?きちんと仰ってくださらなければ、分かりません」
 優しい声音で囁かれて、性器の先端を指で撫でられ、身悶えた。
 蜜でぐっしょりと濡れてしまっている性器をなぞるように、高遠の指がゆっくりと下がってゆく。
 それだけでも昂ぶった身体には刺激が強過ぎて、理性が飛びかける。
「高、遠……もっと、して…は、激しく…」
 羞恥で泣きそうになりながらも何とか口にすると、高遠は嬉しそうに笑って、僕の性器の根元をきつく握り込んだ。
「普段の我儘な真夏さんも良いですが…素直なのも、可愛らしくて好きですよ」
「んっ…ぁあ、あ――ッ…」
 耳元で囁いた瞬間、入口近くまで引いた高遠の雄が一気に挿し入れられる。
 前は塞き止められたままで、僕は本当に呆気なく、また後ろだけで達した。
 まだ痙攣が止まない内に、高遠は激しく腰を打ちつけては、甘い疼きを残して引いてゆく。
 最奥まで貫かれ、好い箇所を的確に何度も突き上げられる度に、僕の唇からは悲鳴のような声が零れた。

「好きです、真夏さん…」

 ――――高遠のその言葉は、まるで、懺悔みたいだ。
 耳元で切なそうに紡がれる言葉が、ひどく悲しく思えて、僕はきつく目を瞑る。

 必死で高遠の首にしがみついて、自らも腰を揺らし出すと、彼は褒美のようにキスをくれた。
 優しく、啄ばむようなそれは、暴力的なヤクザがするようなものには到底思えない。
 蕩けてしまいそうな程の愉悦に呑み込まれて、自分がどれだけ乱れてしまっているのかも分からないまま
 次第に意識が朦朧とし、失神するまで高遠に何度も貫かれて、快楽に耽溺していった。

 ……………僕は、彼の好きと云う言葉に同じ言葉を返したことは、一度も無い。



 眼を覚ますと、僕は全裸のままベッドの上に居た。
 気絶している間に高遠が拭いてくれたのか、肌は何処もベタ付くことなく滑らかだ。
 肩まで掛けられていた毛布を退けて、気だるい身体を起こす。
 途端、下肢に少し痛みが走ったけれど、動けない程では無い。
 高遠の姿を捜すように室内へ視線を走らせてみるものの、求めた姿は何処にも無く、壁に掛かっている時計を見れば深夜一時を回っていた。

 一年が過ぎて、まだ二日目になったばかりだけれど、自分からして見れば月日が経つのは本当に長かった。
 自分が決めた罰の所為で……好きな人を傷付けることで、僕まで苦しんだ。

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