言葉…12
「真夏、こっちを見ろ…」
「ひっ」
あの低い声が上がったと同時に、いきなり乳頭を抓られて、短い悲鳴が零れた。
咄嗟に口を塞ぎ、彼の方へと恐る恐る視線を戻す。
僕は………怒らせるような事は、言っていない筈だ。
それなのに、どうしてあの口調になるのか理解出来なかった。
目に映った高遠の表情は、眉間に皺を寄せていて怒っているようにしか見えない。
告白したのに、何でそんな表情をされるのかが分からず、口元から手を離した僕は少しむっとした。
――――だけど。
「くそっ、もっと早く言ってくれても良いだろうが…」
「っうぅ…あッ…」
苛付いたように舌打ちを零して、高遠は乳頭を押し潰すように刺激して来た。
普段の、慎重で丁寧な愛撫と違う手荒な扱いに、肩がびくりと震えた。
けれど拒む気なんて、全く湧かない。
今度は柔らかく乳頭を抓られ、続いて指の腹で優しく撫でられて、熱が下腹の方へ溜まってゆく。
堪らなくなって自ら足を開くと高遠は椅子から立ち上がり、間へ身体を割りいれて来た。
スラックスの前を開いて取り出された、彼の逞しい雄を目にすると身体の奥が疼いて、どうしようもない。
「だって、何も言わずに僕を、置いて…何処かへ行ったじゃないか。だから罰を…あぁぁッ…!」
強引に身体を繋げられた所為で、言い掛けた言葉は悲鳴に掻き消された。
潤滑液で潤されてもいない内部へ、彼は猛々しいソレを強引に捻じ込んで来る。
奥深くまで侵入すると、高遠はようやく動きを止めて息を吐いた。
「ぃ…ッ…」
内部を隙間無く埋め尽くされる感覚に幸福感を感じたけれど、それよりも痛みの方が強い。
涙が滲んでぼやけ始めた視界で、ネクタイを解く高遠の姿が映る。
「痛いか、」
解いたネクタイを丁寧に椅子の上へ置いた後、高遠は静かな口調で尋ねて来た。
痛いけど泣き喚くほどのものじゃないしと思い、小さくかぶりを振ると、彼はどうしてか深い溜め息を零す。
垂れた前髪を掻き上げる仕種が魅力的で、僕はもう一度、彼の名前を呼んだ。
だけど高遠は全く動こうとはせず、双眸を細めながら僕を見下ろしている。
彼に見下ろされるのも、見上げられるもの、好きで好きで堪らない。
その瞳に、僕が映っているのだと思うだけで、心は熱くなって幸せな気分になれる。
「ねぇ、樹…お願いだから……もう、置いてかないで…」
素直な言葉を零すと、高遠は僕の身体に腕を回して、きつく抱き締めてくれた。
彼に抱き締められると心から安心出来るし、すごく気持ちが好い。
その背に手を回して抱き返すと、静止したままだった彼は慎重に、緩い律動を始めた。
高遠が欲望を抑えて待っていてくれたお陰で、痛みは大分和らいでいた。
彼の先走りのぬめりで、徐々に内部の律動がスムーズになって、痛みよりも快感が強まってゆく。
「もう二度と置いていかねぇし、嫌がっても離れてやらねぇからな…真夏、覚悟しろよ」
耳元で低く囁かれて、背筋がぞくぞくする。
口元を緩めて薄く笑う高遠がひどく魅力的で、見惚れてしまった為に頷くのが少し遅れてしまう。
僕が頷くと高遠は嬉しそうに笑って、いい子だと褒めてから徐々に速度を上げていった。
内壁を擦り上げられ、奥を突き上げられて、濃過ぎる悦楽に捕われる。
―――――この男が、好きで好きで、たまらない。
夢中で高遠を感じながら何度も名前を呼ぶ僕を、彼は満足そうに見つめてくれる。
もっと、見つめて欲しい。今だけは、その眼に僕以外を映さないで欲しい。
どうしようも無いほどの強い独占欲を抱きながら、高遠の身体にきつくしがみつくと
彼はまるで応えるように巧みに腰をグラインドさせ、僕を責め立てた。
「っあ、ぁ…ん…樹…っ、い…つき…ッ」
「真夏さん、愛してます…」
いつも口にしてくれる甘い言葉を、耳元でそっと、低く掠れた声で囁いてくれる。
その言葉は、もう懺悔のようにも、悲しいものにも思えなかった。
―――――ずっと、この言葉を云われた後に、返したかった言葉があった。
つまらない意地を張った所為で、一年以上も先延ばしにしてしまったけれど……ようやく、その言葉を口にできる。
「僕も、…好きだよ………大好き、」
甘い愉悦に酔いしれながら、偽りの無い、心からの言葉を告げる。
愛しいひとが、嬉しそうに笑ってくれると幸せ過ぎて堪らなくなり、僕はそっと微笑んで甘えながら高遠にねだって見せた。
暴力的で冷酷なヤクザらしくない………優しく、啄ばむような、甘い口付けを。
終。
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