水槽…5

「まあいい…調べれば、すぐに分かる事だ」
 目をきつく瞑った蓮を見下ろしながら嘉島は冷ややかな声を放ち、ヘッドボードの棚へ手を伸ばしてボトルを取った。
 ささやかな抵抗とでも云うように、目を瞑っている蓮を見ていると、嘲笑ってやりたくなる。

 気持ち好くって泣く癖に。すぐに快楽に負けて、俺に縋り付く癖に。
 胸中で蔑み、喉奥で低く笑った後、蓮の下衣をいささか乱暴に下着ごと剥ぎ取った。
 反応し始めていた性器が目に映ったが、それには触れず、ボトルを傾けて透明な液体を片手に垂らす。

「蓮、足を開け。」
 短く言い放つと蓮はうっすらと目を開け、少し恥じらいながらも両足を開いてみせる。
 従順なその姿に満足し、間に身体を割り入れた嘉島はすぐさま、液体を存分に絡めた指を蓮の蕾へと埋没させた。
 液体のお陰で、それはすんなりと侵入するものの、以前抱いた頃と比べると狭すぎる。
 誰にも抱かせること無く、一人で後ろを弄ることも無く過ごしていたのだと分かると、蓮に対する愛しさが強く込み上げて来た。

 中指を奥まで埋め込むと、休む間も無く探るように動かし、早急に前立腺を掠る。
 途端、蓮の身体が大きく震え、悩ましげに眉が寄った。
 その反応に気を良くした嘉島は前立腺の膨らみを突き上げ、執拗に擦り上げては責め立てる。
「はっ………ッ…」
 声を上げることは無く、熱く息を弾ませながら、蓮は濡れた瞳で此方を見上げて来る。
 蓮のその表情が物欲しそうなものに見え、情欲が激しく煽られた。
 色白で華奢な身体や、怯えの色を含んだままの微かに濡れた眼差しも、息を呑むほどに美しく整った顔かたちも
 すべて、ひどく魅力的で………手放したくないと、強く思う。
 此処まで他人に対して強い執着を抱いたのは初めてで、まるで盛りのついた醜い獣のようだと嘉島は胸中で己を卑下し、微かに苦笑する。

「―――ッ!」
 中指だけで内壁を擦り、半ば乱暴に指を回転させると蓮は大きく喉を反らし、身悶えた。
 次第に乱れてゆく相手を見下ろしながら反対の手を動かし、無骨な指で、柔らかな肌を滑るように愛撫してゆく。
 整った顔かたちとは対照的な、傷だらけの肌へ唇を寄せ、まるで執着を表すように何度も口付けた。
「…はッ…――っ、はぁ…っ…」
 既に固くなった乳頭を指で摘んで押し潰され、蓮の息が更に上がる。
 乳頭を指の腹でじっくりと擦られると、身体の奥が疼いて我慢出来なくなり
 蓮は縋り付くように片手を動かして嘉島の腕を掴み、切なげな表情を見せた。
「全く…おまえと云う奴は、どうしようもねぇな。……そんなに欲しいか、」
 冷たく、蔑むような声音を放たれて胸の奥が痛んだが、蓮は我慢出来ずに頷き、嘉島の腕を何度か引く。
 頬を染め、恥じらいながらも快感をねだるその姿は、嘉島の心を捕らえるには十分だった。

 中指をゆっくりと抜き去ると、すぐさまスラックスの前を開く。
 ろくに慣らしていない蕾へ、そそり立った雄をあてがった瞬間、蓮の身体が強張る。
「…恐いか、」
 その様子に気付いた嘉島は、冷ややかな問いを放つ。
 けれど蓮は首を縦にも横にも振ろうともせず、苦痛を耐え抜こうと、きつく目を瞑った。
「いい子だ。……それでこそ、俺の人形だ」
 冷笑を口元に浮かべながら囁き、嘉島は愛しげに蓮を見据える。
 だが蓮は嘉島の眼差しに気付くことも無く、目を瞑って視界を閉ざし、堪えるようにシーツを握り締めた。

 嘉島は、蓮以外の同性を抱いたことが無い為、加減を知らない。
 同じ男なのだから多少の無理はしても平気だと考え、いつも十分に慣らす事無く内部へ侵入してゆくものだから
 蓮にとっては、苦痛としか思えない瞬間だった。
 が、始めの内は苦痛に耐えて歯を食いしばり、眉根を寄せている蓮は徐々に快楽を捕らえ始めると、あまりの好さに涙を零し始める。
 その変化してゆく様を、嘉島はひどく気に入っていた。
 声を出せなくなってから蓮は喘ぐことも無くなったが、達する時には、か細い悲鳴のようなものを押し殺すように小さく零す。
 それを耳に出来、蓮の乱れる姿を見るだけで、嘉島は十分満足出来た。
 喋れなくなろうと、そして自分の事を憎んで嫌っていようとも、何も問題は無い。
 蓮が自分の傍に居て、生きていてくれさえ居れば…………それで、十分だった。


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