黒鐡…28
何処と無く優しさが感じられるようなその笑みに、何故だか動悸が速まって、
慌てて逃げるように目を閉じると御島は喉奥で低く笑った。
愉しそうな笑い声や、僕の前髪を掻き上げるようにして撫でてくれる手が、すごく心地好い。
「み、御島さん…あの、お…おやすみ、なさい…」
「ああ…おやすみ、鈴」
母に向けて口にしても、決して返されなかった言葉を、御島は優しい声色で返してくれる。
部屋はまたいつものように静まり返るけれど
御島が傍に居てくれる空間は………少しだけ、温かく感じられた。
目を覚ましたのは夕刻過ぎで、けれど御島は帰らず、ずっと傍に居てくれたようだった。
母親が旅行に行ってしまったから、僕が寂しさを感じていると思っているのだろうか……
一向に帰る気配を見せない御島を見て、気を遣ってくれているのかも知れないと思う。
「御島さん、あの…お帰りにならないんですか?」
「鈴は俺をそんなに、追い出したいのか」
なるべく失礼のないようにと尋ねたのに、御島はそんな言葉を返すものだから、少しばかり焦ってしまう。
焦る僕を見て、御島は何だか愉しそうに笑っていて……やっと御島の発言が、冗談だと云う事に気付いた。
「鈴、おまえは本当に可愛いな、」
揶揄するような口ぶりに、それも冗談なのだろうと察する。
御島はどうしてこうも、僕を狼狽えさせるのが上手く、冷静にさせてくれないのだろう。
もしかして……好きだと云うのも、冗談なのだろうか。
「顔色は好くなったみたいだが……具合はどうだ、」
低く通る声で問われ、咳も出ないし大分いいですと答えると、御島は口角を上げて、そうかと呟いた。
その表情に一瞬どきっとし、慌てて視線を逸らすと、布団の上に座っていた僕を御島は唐突に抱き寄せて来た。
「鈴…、好きだ、」
低く少し熱の籠もった声で名を呼ばれ、また好きと云われて、僕は急激に熱が上がるのを感じる。
御島は僕の上衣の釦へと手を掛けて来て、服を脱がされてゆく事に顔が熱くなり
またいつもと同じことをされるのかと考えると、とてつも無く恥ずかしい気持ちがして……御島をまともに見れなくて、僕は顔を背けた。
「あ…、ゃっ…や…っ、御島さ…」
「嫌、って言われてもな…鈴、此処はベタベタだぜ。今止められたら、おまえが辛いだけだろう」
深くまで咥え込んでいた僕の性器から、御島は一度口を離して云うけれど、
手で緩やかに扱いて来るから快感は持続し続けて、僕は堪らずに首を横に振った。
そんな事をしても御島は止めず、感じる先端部分を指で擦って、その上、
零れる蜜を舐め取るようにして僕自身へ熱い舌を這わせてくる。
「ふ、…ぁ、ああ…っ」
ぐっしょりと濡れているそこを、再び深くまで咥え込まれて僕ははしたない声を響かせ、身体を震わせて達した。
僕の放ったものを飲む音が御島の喉から響いて、この瞬間がいつも一番恥ずかしいと、悦楽の余韻に浸りながらも思う。
「鈴…少し足を開け」
開けと口にしていながら、御島は僕の足を掴んで開かせ、その間に身体を割りいれて来た。
黒いスーツの上着を脱ぎ捨てて、ネクタイを緩めて肩に掛け始めた御島の姿は野性的で
けれどそれは彼がやるからこそ、思わず見惚れてしまいそうな程に魅力的だった。
でも―――――。
「や…ッ、な、何っ」
御島に目を奪われていると、むき出しの双丘の割れ目を緩やかになぞられ、僕はあまりの出来事にぎょっとした。
思いも寄らない場所に触れられ、驚いて逃げるように腰を動かすけれど、
御島は片手で僕の腰を押さえ付けて、指を更に奥へと進ませて……。
「み、御島さ…御島さんっ」
気は確かか、と思って必死で名を呼ぶと、御島はニヤリと口元を緩めて笑う。
「どうした、鈴」
「どうしたって、御島さんこそ、どうしたんですかっ」
「何がだ、」
他人になんか触られたことの無い、普通なら誰も触らないだろうと思う場所に
蕾に、平気で指を当てておいて、平然と御島は訊き返して来る。
「何がって、何がって……そこは、触る所じゃ…」
対する僕の声は震えていて、信じられない出来事に身体はひどく緊張した。
御島は鼻で軽く笑うと、蕾を緩やかに何度か撫でて来て、その行為に僕はひっと小さく悲鳴を漏らしてしまう。
その瞬間、彼の指先が少し埋没して、全身が強張った。
「おい鈴、力を抜け」
「み、み…御島さんっ、やめっ、や…止めてくださいっ」
御島の身体を押し戻そうと彼の肩に手を掛けるけれど、いくら押しても、相手は微動だにしない。
それでも必死に、何とか御島の血迷った行動を止めさせようと、僕は何度もその肩を押し続けた。
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