黒鐡…38

「なら言え。ほら、早くしろ…」
 冷たい言葉を放ったと同時に、御島は僕の上衣を少し捲って、間から手を忍ばせて来る。
 肌に触れた冷たい手の感触に一瞬身体が震えて、直ぐにはっとして口を開く。
「み、御島さん…ッ、な…何を…」
「何を、じゃねぇだろう、鈴。質問しているのはこっちだ、」
 責めるような冷たい双眸が、痛いぐらいに突き刺さる。
 随分前に僕が父と会話をしていた間、ずっと此方を睨んでいた、優しさの欠片さえ感じられない以前の御島の眼と同じで―――――。
「御島さ…い、嫌だ……ぁっ、」
 相手の胸に両手を当て、押し戻そうとした矢先に、乳頭を直に触られて声が上がる。
 声を上げてしまった僕を、御島はまるで馬鹿にするように鼻で軽く笑って、そこを指先で擦って刺激して来た。
 押し戻そうとしていた動きを止めて、代わりに何度も相手の胸元を叩いて拒む。
 だけど御島は止めてくれず、もう一度笑って、僕の上衣を今度は思い切り捲り上げて来た。
 あんまりな行動に息を呑み、身体を強張らせた僕の胸元に、御島は顔を近付けて唇を寄せた。

「ぅ…んっ」
 慣れたようにそこを軽く吸って、既に固くなっていた乳頭を緩く咬まれる。
 その上反対も摘まれて弄ぶように擦られ、身体の奥まで響くような痺れに身悶え、下肢に熱が溜まるのを感じた。
 五日ぶりの快楽に背筋がぞくぞくとして、だけど運転席に人が居るのにと、僕は嫌がるように首を横に振った。
「っぁ…、やっ…嫌…御島さんっ、」
 逃げるように身を捩るけれど、肩を痛いぐらいに押さえられていて、逃げる事も叶わない。
 僕がどんなに暴れても逃げようともがいても、長身の御島との体格差があまりにも有り過ぎて、
 その上御島は力も強いから、逃げられる訳が無いのだ。
 せめてもの抵抗として、痛みで快感を紛らわそうと唇を強く咬んで、声を押し殺そうとすると
 御島は大きな舌打ちを零し、乳頭を弄っていた手を下肢へと這わせた。
「やだっ、やめて下さ……み…しま、…っ、黒鐡さ…」
 相手を呼んだ自分の声が、本当に泣いてしまいそうなぐらいに弱々しくて
 僕は今、泣きそうなのかと自問して、そうなのかも知れないと直ぐに思う。
 威圧的な雰囲気はずっと変わらないし、僕が嫌がろうと、どうでも良いみたいに
 今の御島には、優しさなんて微塵も感じられなくて………胸が、苦しい。

 僕は、あの優しい、いつもの御島が好きだ。
 こうも違うところを見せ付けられると、あれは嘘だったのかと、思わずにはいられない。
 …………僕を、囲いたい為に、今まで偽りの優しさを見せていたのかと。
「こんな…こんなの、嫌です…、恐い…嫌だ、」
 顔を上げた御島がじっと僕を見据えていて、縛り付けて離さないかのようなその双眸に、僕はひどく怯えながら震えた声で訴えた。
 すると車は唐突に、静かに停車して、御島は暫くの間何も言わずに僕を見つめていた。
「なら、此処じゃなければ良いんだな。……降りろ、」
 僕から身体を離して、御島は僕の腕をあの大きな手で掴んで、引きずり出すように外へ連れ出した。
 車から降ろされると、乱れた服を整える間も無く、御島は僕を軽々と抱き上げる。
 そしてあの、見覚えのある大きな―――――
 帰る際に一度だけ見た事がある、御島の家へと僕は連れ込まれて行った。



 寝室へ向かい、広いベッドの上へと僕を転がした御島は直ぐに服を剥いで僕を裸にし、自分も上衣を脱いで半裸になった。
 僕は逃げる間も無く彼のタイで両手を後ろ手に縛られ、早急な愛撫で熱を上げさせられた性器は、白濁を放つ事も出来ずに放置された。
 御島は僕の性器に触れてもくれず、取り出したボトルの中の液体を指に絡めて、もう随分長い間、後ろだけを愛撫していた。
「鈴、久し振りだから感じるだろう。此処も嬉しそうに、俺の指を締め付けてやがる」
「あぁ…ッん」
 ぐっと内部へ二本の指を思い切り突き立てられ、あのすごく感じる箇所を擦られて、悲鳴じみた声が上がる。
 うつ伏せになって、腰を上げさせられた――――まるで犬のような格好がひどく惨めで
 その上両手は縛られているから、自ずと肩に体重が掛かって少し辛い。
「いい眺めだな…鈴、分かるか?ヒクついているぜ、」
「ひっ…ぅ、ぁ、あ…ッ」
 指を増やされた所為で圧迫感が強まって、的確にあの場所を突かれて背中がしなる。
 クチュクチュと響く水音の卑猥さから逃れるように、僕は何度かかぶりを振った。
「鈴、これでもまだ言わないのか。これじゃあ何時まで経っても達けねぇぞ……それとも鈴は焦らされる方が好きなのか、」
 揶揄するように御島は笑って、そんなことが有る筈無いと、僕は首をもう一度横に振ろうとした。
 けれど抽挿の動きを速められて、身体がビクリと震えてしまう。


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