黒鐡…60
慌てて上体を起こして拒否し、逃げるように身体を動かそうとしたけれど
御島の手が素早く僕の腰を押さえつけて来て……それが怪我をしている方の手だった為に、僕は逃げるのを躊躇った。
「鈴、今夜は逃がさないぜ。あまり暴れるなよ、傷が開いちまうからな」
御島はゆっくりと舌なめずりすると、もう片手で僕のズボンのジッパーをゆっくりと下ろしてゆく。
ジッパーが下げられる音に羞恥心が込み上げて来て、僕は彼の胸に両手を付けた。
「御島さ…い、いい加減に…して下さいっ、傷が開いたらどうするんですかっ」
「だから、おまえが暴れなければ済む話だろう」
「な、何言っ…あっ…ん、…んッ」
下着の中に潜り込んできた御島の手に、僕自身を直に包み込まれて、それだけで甘い痺れが走った。
どうしてか以前よりも快感が強くて、緩くそこを揉み込まれると鼻に掛かったような吐息が零れて
自分の零した甘いそれに、羞恥で熱が上がってしまう。
このままでは、普段よりも強い快楽に流されてしまうと考えて
何とか止めて貰おうと、僕は嫌がるように何度かかぶりを振った。
「やっ…やめて、…ぁ…く…っ」
「嫌がってる割には、もう濡れて来たぜ」
耳元で御島は揶揄するように低い声音で囁いて、濡れて来た事をまるで思い知らせるように、溢れ出した蜜を塗り込むようにして先端を指で撫でて来る。
時折そこを強く何度か擦られ、鋭い快感が全身を駆けて、芯から溶けそうな愉悦に僕は無意識に腰を揺らした。
すると御島はくくっと笑って、一度僕自身から手を離すと手慣れたように、僕のズボンを下着ごと脱がして再び性器をやんわりと握り込んで来る。
そのまま上下に擦り上げられ、耳朶を甘く咬まれて、背筋がぞくりと震えた。
「あぁ…あっ、嫌…っ…も、もう…、」
弱々しく首を横に振って、達しそうな事を告げると、御島は達っていいと優しい声で囁いてくれた。
一際強く擦り上げられるともう我慢出来ず、僕は身体を震わせて声を上げながら、御島の手の中で達してしまった。
「鈴、気持ち好かったか、」
「ん…っ」
白濁で濡れた御島の手が蕾の方へと滑り落ち、それを塗りつけるように、入口を何度か軽く擦って来る。
御島の元で暮らし始めてからは、もう何度も彼の指を受け入れた事のある其処は
今となっては内部の、あの一番感じる箇所を刺激される方が、自身を刺激されるよりも感じる。
快楽を思い出すと、まるで期待するように身体の芯が疼いて、僕は微かに震えた。
けれど僕は何とか、ありったけの理性を振り絞って、かぶりを振って見せる。
「だ、駄目です…御島さ、もう、止めて…」
「……おまえに触れられないなら、俺は禁欲を止めるぜ」
耳に入って来た御島の言葉が信じられず、僕は少しだけ目を見開く。
何も答えられずにいる僕に、御島は唇が触れそうな程に顔を近付けて、薄く笑った。
「どうするんだ、鈴。此処で止めれば、俺は他の奴を抱くぞ」
「い、嫌…嫌です、そんなの……」
震えた声で答えると、御島は怪我をしている方の腕を動かして、優しい手付きで僕の頭を撫でて来た。
僕は身を捩ってそれを避け、目を逸らしながら口を開く。
「や…止めてとは、もう言いません。でも……でも、そっちの手は…使わないで下さい」
「利き手が使えないのは、不便だな」
御島は苦々しそうな口調で云って、僕の額へと口付けて来た。
逸らした視線をそろそろと戻すと、御島の双眸と目が合って、それだけで体温は上がってしまう。
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