黒鐡…61

 白濁を塗りつけるように入口を擦っていた御島の指は、やがてゆっくりと内部へ侵入して来て、僕は唇をきつく噛み締めた。
 今まで何度も探られた所為で、そこはとても過敏になっていたけれど、普段よりも快楽が強すぎる。
 指が侵入して来る感触ですら、声が零れてしまいそうなぐらいに気持ちが好い。
 自分の堪らなく好きな人に、こんな淫らな事をされているのだと思うと
 余計に快感が強まるようで、頭が変になってしまいそうだった。
「ん…ぁ、あ…んんッ…」
 奥まで侵入して来た御島の指は知り尽くしているように、的確にあの感じる部分を押し上げて来る。
 鋭い快感に爪先が大きく跳ねて、それでもきつく目を瞑って声を押し殺していると、抉るように指を回して内壁を刺激された。
「鈴、我慢しなくていい。幾らでも啼いて、可愛い声を俺に聞かせろよ」
「くっ…ん…っあ、…ゃっ…ぁあッ」
 指を二本に増やされて激しく突き上げられると、目の前がぼやけ始めて、僕は抑えられずに涙を零してしまう。
 何度も執拗にあの部分を擦られると腰は震えて、頭がおかしくなりそうなぐらいに気持ちが好くて、直ぐに絶頂感が押し寄せて来る。
 最初の内は後ろだけでは達する事は出来なかったけれど、あの一番気持ちが好い箇所を
 何度も刺激されてゆく内に、いつの間にか僕は前を触らなくても達せるようになった。
 吐精はしないけれど、依存してしまいそうなぐらいに気持ちが好いし、何度も達く事だって出来る。
「鈴はもう、前より後ろの方が感じるんだよな……コッチの方が好くって堪らねぇんだろう、なあ?」
「やあっぁ…!」
 どうなんだ、と問われて、奥の感じる箇所を強く指で突かれて、目が眩む。
 僕はもう否定する事も出来ずに、素直に何度も頷いて見せた。
 病院なのに何をしているんだろうとか、声を上げてしまっては聞かれるんじゃないかとか、そんな事はもう頭に無くて――――――。
 高らかな声を上げて身体を震わせ、濃い快楽に耐えるように
 まるで縋り付くように、僕はシーツを強く握った。



「鈴、何をそんなに怒ってやがる」
 目を覚ましてから一言も口を利かない僕に、御島はニヤニヤと笑いながら尋ねて来た。
 御島は昨夜、僕が気絶するまで何度も達かせたし、身体中に鬱血の痕を沢山残した。
 今朝、病室内の浴室でシャワーを浴びようとした僕はそれを見つけて、もう本当に、恥ずかしい気持ちで一杯だったのだ。
 それに………好きな相手に淫らな事をされているんだと云う事実があって、いつもより余計に感じた自分が、何よりも恥ずかしかった。
 だから別に、怒っている訳じゃない。御島と口を利くのが、ひどく恥ずかしいだけだ。
「別に、何でも有りません。今日は僕に構わないで下さい」
 ソファーに座ったまま、読んでいた本から顔を上げずに、僕は答えた。
 放った声はあまりにも不機嫌そうで、その事に自分で驚いたけれど、訂正する気にはなれなかった。
 恥ずかしくて恥ずかしくて御島の顔もまともに見れないし、朝からずっとどきどきしていて、ろくに会話も出来無い。
 恋と云うものは、慣れていない方が不利なんだと、僕は初めて知った。
「そう云う態度を取るなら…こっちにも考えが有るぜ」
 頁を捲った瞬間、傍で声が聞こえて、僕は咄嗟に顔を上げる。
 いつの間にか御島は、僕の目の前に近付いていて……そう云えば彼は、あの荒々しい足音も立てずに近付く事も出来るのだと思い出した。
「昨夜みたいにたっぷりと可愛がって、素直にさせるしかねぇよな?」
「な…ッ」
 御島の発言に驚いて慌てて逃げようとするけれど、彼は素早く僕の肩を掴んで、痛くない程度に押さえつけて来た。
 それでも諦めずに逃げようと身を捩ると、御島はゆっくりと顔を近付けて、僕の耳元で吹き掛けるように淡く息を吐く。


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