黒鐡…78
僕の腰を掴んでいるその手は、怪我をしていた方の手だったけれど
もう包帯は巻かれていなくて、抜糸も済んでいる傷痕だけが目に映った。
傷痕は少し皮膚の色が違っていて、少しばかり盛り上がっているようにも見える。
「鈴、これ以上耐えろと云うなら、俺は死んじまう」
痕が残ってしまったんだと考える僕に、切羽詰まった口調で御島は言って、ボトルの中の液体を雄々しく逞しいそれに塗り付けた。
そして直ぐに蕾へとそれを押し当てて来たから、僕は小さな悲鳴を上げてしまう。
御島は他の人を抱かなくなったのだし、だから性欲を抑えて耐えるのは
もう限界なのだろうけれど………だけど、恐くて恐くて、仕方ないのだ。
「ま、待って、待って下さい…黒鐡さん…」
震えた声を零すと御島は片手を動かして、僕の頭を優しい手付きで撫でてくれた。
前髪を掻き上げるようにゆっくりと撫でられ、額に口付けまでされて、身体の奥が熱くなる。
「鈴……いいか、」
熱の籠もった双眸で見据えられ、低い声音で静かに尋ねられて、僕は嫌だとは言えなかった。
恐くて恐くて、堪らない。
身体は震えるし、緊張して、逃げたくて堪らない。
だけど、僕は――――――僕を求めてくれる御島と、繋がりたい。
そう思って頷くと、御島はいい子だと笑いながら言って、また僕の頭を撫でてくれた。
いつ挿れられるのかとびくびくしていると、御島は喉奥で笑って、顔を近付けて僕にキスをしてくれる。
重なる唇の感触に鼓動が速まって、優しいキスに安堵した瞬間、ぐっと御島のそれが押し入って来た。
「ぅ…あ、…っ、」
指とは比べ物にならないぐらいに圧迫感が強くて、内壁を押し広げられる感覚に、鈍い痛みまで感じる。
眉根を寄せて唇を噛み締めようとするけれど、御島の舌が口腔へ滑り込んだ所為でそれは出来なかった。
熱く猛った御島自身はようやく太い先端を侵入させ、それから一度も動きを止める事無く、ゆっくりと奥深くまで埋め込まれてゆく。
「は…んっ、ぅ…んっ」
舌を御島の舌で擦られ、上顎をじっくりと舐られて、あまりにも気持ちが好くて脱力していた所為か
それとも潤滑液のお陰か、御島のそれは意外にもすんなりと奥まで到達した。
「鈴…全部入ったぜ、……辛いか、」
唇を少し離した御島が目を細めて微笑し、僕の頬に手を当てて囁くように尋ねて来る。
圧迫感は強いけれど、想像していたよりも辛く無いし、痛みもひどいものじゃない。
だから小さく首を横に振ると、御島は啄ばむような軽い口付けをした後に、喉奥で笑った。
「散々、俺の指で慣らした甲斐が有ったって訳だな、」
「んあ…やぁっあ…ッ、」
不意打ちのように、奥の感じる箇所を何度か緩く突かれると、甘い痺れが走って身体が仰け反った。
咄嗟にシーツを掴むと、その手を押さえ付けるように御島は握って来て、緩やかな抽挿を始める。
御島の熱すぎるそれで内壁を擦り上げられる感覚に、息が弾んで、徐々に快楽は強まっていった。
「黒鐡さ…好き、…は、ぁ…あ、…ん…ぁっ、好き…っ」
僕の手を押さえつけるように握っている御島の手を、強く握り返して、夢中で想いを告げる。
好きだと口にすると、快感が余計に強まってゆくように感じて、芯から痺れるような甘い愉悦に僕は更に涙を零した。
「……鈴、もう我慢し切れねぇ、」
「ひっ、あぁ――ッ…!」
緩やかな抽挿を繰り返していた御島は、いきなり腰を引くと、思い切り奥を突き上げて来た。
目が眩みそうな強烈な快感に僕は呆気なく達して、何度か痙攣を繰り返す。
「うぁ…あっ、や…だめ、やだ…っ、」
達したばかりでまだ痙攣も止まない内に再び動かれて、身体がヒクヒクと震える。
首を何度も横に振って、動きを止めて欲しいと願っていたのに、御島は目を細めて僕を眺めているだけで、止めてくれない。
荒々しい抽挿を繰り返されて、奥の感じる箇所を的確に突き上げられ、あまりの強い快楽に僕は何も考えられなくなる。
「すげぇな、鈴…好過ぎるぜ。嬉しくて嬉しくて、たまらねぇよ。……イカレちまいそうだ、」
御島が僕の耳元で、満足気な吐息を零しながら低く囁いて、耳朶を緩く噛んで来る。
汗が伝う身体にシーツが纏わりついたけれど、不快感なんて感じなかった。
御島の手をきつく握って、もう片手は縋り付くように、御島の肩を掴む。
「…黒、鐡さん、くろが…ね、さ……やっ…も……っあ、ぁッあ――…っ」
僕ははしたない声を上げながら、再度押し寄せてきた濃過ぎる絶頂感に耐えるように
御島の肌にきつく、爪を立てた。
人に抱かれたのは初めてだったと云うのに御島は加減を知らず、自分が達しても飽きずに、昨日は何度も僕を抱いた。
体力の無い僕が疲れきって、ようやく行為は終わったのだけれど、御島はまだ物足りなさそうだった。
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