証…6
「んっ…ん、ふ…はぁ…っ」
舌をきつく吸われる度に、頭がくらくらして、意識が朦朧とする。
飲み切れなかった唾液が唇の端から零れ、顎を伝って、白い肌を濡らした。
巧みな口付けに酔わされた蓮は、舌が抜かれた後も暫く放心し、脱力してしまう。
頬を上気させて、濡れた瞳を向けてくる蓮の姿は、どうにもそそる。
嘉島は自分の唇を舐め、スーツの上着を無造作に脱ぎ捨てた。
着物の合わせへ手を差し入れ、素肌を撫でてやると、蓮が微かに甘い声を零す。
ネクタイを片手で緩めだした嘉島は、ふと、藤橋が背広の隠しへ押し込んだものを思い出した。
蓮の身体から手を引き、脱ぎ捨てた上着の隠しをあさりだす。
透明な液体が入った小瓶を取り出し、さして興味なさそうに眺める嘉島に、蓮は訝しげに声を掛けた。
「何ですか、それ…」
「犬の土産だ。かなり効く催淫剤だそうだが…使ってみるか、」
無関心な物言いで尋ねてくる嘉島の様子からして、使用する気はあまり無いのだろう。
だとすると、それを使用するのは自分を気遣ってのことかも知れない。
蓮はそう考えるものの、そんな嘉島は滅多に見られない為、俄かには信じ難い。
「……催淫剤って確か…気持ちよくなる、あれですよね」
「ああ。昔、おまえに使ったことがあっただろう。あれよりも強力かも知れねぇぞ。気持ちよすぎて、何も考えられなくなるんじゃねぇか…どうする、」
嘉島は珍しく、蓮の意思を確認してくる。
やはり、嘉島なりに気を遣ってくれているのだと理解した蓮は、それだけで胸を熱くさせた。
小瓶をしばし眺めたあと、やがて緩やかにかぶりを振る。
「いりません。そんなものを使わずに憲吾さんの手で…気持ち好くしてください。貴方の手で溺れてゆくほうが、幸せです」
「おまえ…そう云う口説き文句を、どこで覚えるんだ」
いささか参ったように、やれやれと呟きながら、嘉島は惜しむ様子も見せずに絨毯の上へ小瓶を投げ捨てた。
解いたネクタイも捨ててワイシャツを脱ぐと、鍛えられた筋肉質な体躯が露わになる。
その姿に見惚れるように、蓮は淡く息を吐いた。
「今夜は特別だ…たっぷりと感じさせてやる」
水槽の硝子に寄りかかっていた蓮に近付き、嘉島が喉奥で笑う。蓮は期待感で、更に体温を上げた。
身体をずらした嘉島は、蓮の細い両足を強引に割り開くと、股間へ顔を埋めようとする。
その行動に驚いた蓮は慌てふためき、逃げ腰になった。
「憲吾さん、な、なにを…」
「逃げるんじゃねぇよ、蓮。この俺が咥えてやるんだ、大人しくしていろ」
「だ、だめです、そんな…っ」
「風呂には入ったんだろう、ならいいじゃねぇか」
「いいえ、だめですっ、憲吾さんに、そんなことさせられません」
「俺が咬むとでも思っているのか、」
「そ、そうじゃなくて、ですから…とにかく駄目ですっ」
急いで身体を動かして逃げようとするが、嘉島のほうが行動がはやかった。
逃すまいと、蓮の肩を強い力でおさえつける。
しかし尚も逃げようとする蓮に焦れ、嘉島は肩から手を離し、細い首を掴んだ。
「蓮、俺を怒らせるつもりが無いなら大人しくしていろ…こっちは三日も寝てねぇから気が立ってんだ。おまえを絞め殺しちまう可能性だってあるんだぜ…」
低く鋭い声で凄まれ、蓮の身体が大きく震える。
観念したように頷いた蓮は、おずおずと、自ら両足を開いてみせる。
頬を染め、羞恥に震えながらも下肢を見せ付ける様に、嘉島の欲情は奮い立った。
開かれた足の間に身体を沈め、再び股間へ顔を埋めた嘉島は、蓮の性器を目にして思わず笑い声を零した。
「おい、蓮…もう勃ってるぜ。しかも濡れてやがる……だらしねぇな、おまえの身体は」
小馬鹿にするように鼻で笑いながら指摘され、蓮は羞恥で目をきつく瞑った。
何よりも愛しい相手に触れられ、そしてあんなにも巧みなキスをされれば当然のことだと、蓮は自分自身に弁解する。
その矢先に、嘉島が躊躇いもなく、そそり立ったものを口に含んだ。
柔らく湿った口腔に包まれ、熱い舌がからみつく。
口で愛撫されたことが今まで一度も無い蓮は、初めての感覚に震え、身を捩った。
ほんの少し恐怖を抱いてはいたが、それも直ぐに、快楽に掻き消されてゆく。
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