盛夏…09

「すげぇ好かったから、今度は俺の番な…お返し」
 肩を掴んで押し、再び体勢を変えて、のしかかって来る。
 見下ろす体勢を好む宏孝が、そうするのは当然だと判り切っている為、春はまったく動じない。

 ワイシャツの釦を外しながら、宏孝は首筋や鎖骨、胸板へと口付けてゆく。
 前をはだけ終えると、まるで犬のように、春の乳首をチロチロと舐めた。
 慣れた様子で、突起を舌で押し上げてから吸い付く。
 その光景に目を細めて見入り、宏孝の髪を優しく梳き撫ぜた。

「気持ちイイか、ハジメ」
「ヒロちゃんみたいに、喘ぐほど…とはいかないけど、気持ちいいよ」
「うっせーよ、バカ。じゃあ次、下な」
 身体をずらすと、嬉々としてベルトに手を掛け外す。
 そしてジッパーを下ろし、下着の中から取り出したものが、しっかりと勃ち上がっているのを見て、宏孝は楽しそうに笑った。

「ハジメも、すげぇじゃん」
 彼も興奮していたのだと知れば、途端に喜びが溢れて来る。
 指先で裏筋をなぞった後、躊躇う素振りも無く、反り立った幹へ舌を這わせた。

「ヒロちゃん見てたら、熱くなるから」
「…ん、俺も」
 短く返し、ちゅっと音を立ててカリ首を吸う。
 先端を舐めてから口に含もうとしたが、春がそれを制した。
「いいから、ヒロ…、」
 欲情のこもった低い声音は、聞いているだけでぞくぞくする。
 だが、切羽詰った表情を見れば、宏孝は余裕たっぷりに口元を綻ばせた。
「何だよハジメ、我慢できなくなったのか?」
「うん…早くヒロが欲しい」
「しょうがねぇなー」
 上機嫌な口ぶりで返す宏孝の尻を、春がやんわりと揉み始める。
 するといきなり、その手がぴしゃりと叩き落とされた。
「なにしてんだよ、これからは俺が挿れる役だろ」
「え、どうしたの急に」
 意表外の言動に驚きを隠せず、春は素っ頓狂な声を上げる。

「どうしたもこうしたもねーよ。ハジメが言ったんだろ。オトコ同士だと、突っ込まれる側は、喧嘩が強いヤツじゃないと無理だって」
 思わず、春は視線を逸らす。
 受け入れる側は負担が強いから。と、宏孝を抱きたいあまりに昔、嘘の知識を教えていたのだ。

「ハジメ、俺より喧嘩強いじゃん。だからこれからは逆、」
 拗ねたように顔を反らし、ぶっきらぼうな口調で言葉を続かせる。
 そのまま腰下あたりを探って来る腕を、春が慌てて掴んだ。
「違うよ、強くないって。喧嘩じゃなく、僕のは合気道だから、」
「アイキドウ?」
「護身術だよ。自分の力は、それほど必要ないんだ。相手の力を利用するから、女性でも男を投げられるんだよ」
「ゴシン…? よく分かんねーけど、ハジメって俺より弱ェの?」
「当たり前だよ。僕が、ヒロちゃんに力で勝てる筈が無いだろ、」
「ふーん…なら良いぜ、俺のほうが強いっつーんなら、今まで通りでも」
 あっさりした宏孝の単純さに救われ、ほっと息を吐く。

 宏孝に心底惚れていても、こればかりは譲れない。
 淫らな声を上げながら、自分を受け入れてくれる宏孝を見るのが、たまらなく好きなのだ。

「俺は、どっちでもいいし。ハジメと繋がれるなら」
 ほんの少し照れまじりに笑う宏孝に、胸の奥が熱くなる。
 胸中で、愛しく想う気持ちが膨れあがった春は、宏孝の身体を素早く反転させた。



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