盛夏…11
「ヒロは、サド嫌い?」
「…ハジメなら、サドでもマゾでもいいから早く、続きしようぜ」
首へ腕を絡め、軽く口付けて促すと、春は嬉しそうに笑ってから腰を掴んだ。
ゆるく、慎重に、浅い律動を刻み始める。
もう何度も春を受け入れて来たそこは、馴染むのにさほど時間は掛からない。
徐々に宏孝の表情は、苦痛よりも愉悦の色が濃くなってゆく。
その変化に見入りながら、春はペースを上げ、荒々しい突き上げを行なう。
「はぁ、は…んんっ…あっあ…っ!」
奥まで押し入っては引き、また深くまで貫いて来る動きに、宏孝は身悶えた。
春の首にしがみついて、泣きそうな声音で何度も春の名を口にする。
「ヒロちゃん…ヒロ、好きだよ」
「すきとか…こういう時に言うな…っ、変に、…なっちまう…ッ」
激しい責め立ての合間に囁かれ、蕩けそうになる。
ただでさえ、狂おしいほどの快楽に包まれていると云うのに。
感じる箇所を、グッグッと強く押し上げながら春は耳元で、好きだよと甘い囁きを繰り返す。
変にさせてやると云わんばかりに、尚も執拗に責めて来た。
強烈すぎる刺激に抗えず、宏孝の腰が、淫らに揺れ動く。
それだけでは終わらず、蜜で濡れそぼった性器を、夢中で春の腹部に擦り付けた。
「俺も、ハジメ…俺も、すきだ、すき…ん、あ、ああぁ──っ…」
「いいよ、ヒロ。すごくかわいい…大好き」
貪欲に追い求める宏孝の媚態に見入りながら、春は満足そうに笑った。
「夕飯どうする、」
「ハジメが作るモンなら…何でも食う」
ベッドにぐったりと沈んだままで返す声は、嗄れている。
行為後の負担が大きいのは百も承知だったのに、やり過ぎてしまった。
何度も求めてしまった手前、春に向かって悪態もつけない宏孝は、だんまりを決め込む。
春の記憶を刺激する言葉は、なるべく避けようとの考えだ。
何か云おうものなら、春は喜んで懇切丁寧に口にするだろう。
宏孝がどれだけ乱れ、求めたかを。
自分よりも春が弱いと分かった以上、暴力は厳禁な為、殴ってとめることも出来ない。
ただひたすら、恥ずかしい話を聞かされるほうの身としては、拷問に近い。
行為後は興奮が冷める分、羞恥が上回るのだから、宏孝としてはその拷問だけは避けたかった。
「ヒロちゃん…大丈夫?」
うつ伏せの状態でシーツに顔を埋めたまま、ぴくりとも動かない宏孝を案じて、声が掛かる。
夕飯の返答を聞いた時点で、春は台所へ向かったものとばかり思っていた為、内心驚いた。
「ああ、ちょっと疲れただけ。休めば平気。」
のろのろと顔を上げれば、思ったより近くに春の顔があった。
心配そうに覗き込んで、髪に触れて来る。
「やりすぎちゃったね。ごめんね、ヒロちゃんが可愛かったから、つい…」
行為中の己を思い出すと、耳まで熱くなる。
頭を掻きむしりたい衝動に駆られ、宏孝は勢いよく、かぶりを振った。
「だから、いつも言ってんだろ。俺は可愛いって柄じゃねぇから。そう云うの、目がクリンクリンのガキとか、女に言うモンだろ」
「僕は、ヒロちゃんに対しては愛しいって意味で使っているよ、」
柔らかく微笑みながら云われ、宏孝は言葉を詰まらせた。
臆面なく云われたら、どうして良いのか分からなくなって無性に、気恥ずかしくなってしまう。
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