かけひき…13

「ちょ…な、なにすんだよ」
「野暮だな。店に入った時点で、電源ぐらい切っておけ」
「そんなの、おれの勝手だろ、早く返せよ」
「……冬希? 私を待たせて、女と話しをする気か」
 低い声音で凄まれて、身がすくんでしまう。
「えと、じゃあ、メールなら……あ、やっぱり、いいです」
 内心びくつきながら食い下がったが、今度は冷ややかな眼差しを向けられ、しぶしぶ諦めた。
 ベッド脇のサイドテーブルに携帯電話が置かれるのを未練がましく見ていると、掴まれたままの腕を強く引かれた。
「あ…、いやだ、ここ…」
 バランスを崩してベッドに倒れこむと、冬希は急いで起きあがろうとする。
 その肩を、祐一が優しく押さえた。
「安心していい。妻とは一度も身体を繋げていないし、この部屋には誰も迎えていない」
 冬希が嫌がる理由を見透かし、おだやかな声音で適切な説明をする。
 けれどそれは、冬希からすれば新たな疑問を抱くものとなった。
 結婚したのに同じ部屋で寝ないとは、いったいどういうことなのか?
 細かな説明ももらえず、疑問符を浮かべるばかりだったが、すぐに追窮を諦めた。
 覆い被さってくる祐一を見あげ、冬希は重なる唇を受け入れた。



「はあっ、あ、あ…っん…」
 照明が落とされて薄暗くなった室内で、冬希のあられもない声が響く。
 服はすべて剥ぎ取られたが、ケースを見つけた祐一の手によって、眼鏡だけ着用させられた。

「眼鏡が似合うな。冬希、よく見せてくれ…」
 そんな風に甘く囁かれて、断れなかったのだ。

 汗ばんだ身体が、サイドランプの柔らかな光に照らされて、なまめかしく揺れる。
 頭の芯が蕩けるぐらい、愛撫をたっぷりと繰り返された冬希は、もう何度達したか分からない。
 いくど限界を迎えても、身体の奥で疼くような熱は消えなかった。
 また限界の波が押し寄せて、祐一の髪を力なく掴む。
 股間に顔を埋めて、冬希のそれを根元まで呑み込んでいる彼は、目線だけをあげる。
 見つめられながらの口戯に身体の奥は、いっそう熱く疼いた。
「もう…、う…あぁッ…!」
 舌と指で散々刺激されて赤くなった乳首に、祐一の手が伸びる。
 きつく吸い上げられて達した瞬間、乳首を抓られ、絶頂感が継続した。
 ぐったりと弛緩した冬希は、小刻みな痙攣を繰り返す。
「気持ち好かったか」
「ん…すごく…」
 巧み過ぎる愛撫の前では嘘など吐けるはずも無く、まだ息を切らしながら素直に答えた。
 すると祐一の表情は優しくなり、さきほど達したばかりの冬希を揉み始める。
「ちょ、ちょっと待…っ」
「どうした?」
 胸元を押すと、手の動きを止めた祐一が怪訝そうに問う。
 視線を下げた冬希は無言で、祐一の下腹部をじっと見つめた。
 そこの窮屈そうな膨らみが、気になって仕方がない。
 もうずっと達かされっぱなしなのが申し訳なく、そして男としては、悔しくもあった。
 彼が与えてくれる刺激は、理性を麻痺させるほど上手くて、それがまた悔しい。
 自分もなにか出来ないかと考え、意を決したように、ごくりと喉を鳴らした。
「…お、おれも…する」
 予期せぬ申し出に祐一も驚きを隠せなかったが、すぐに微笑み、冬希の腕を引いてそこへ導いた。
「してくれるんだろう、口で」
 耳元で囁かれたのと、膨らみに触れたのとで、冬希は一気に熱をあげる。
 勢いよく、なんども首を縦に振る冬希の反応が、面白い。
 祐一は笑いを堪えながら、ワイシャツの釦に手をかけ、引き締まった上半身を露にした。
 つづいてベルトを外し、下衣も脱ぎ捨てる。
 筋肉が引き締まった体躯を、なかなか直視出来ない冬希は、泳がせていた視線をふと、脱ぎ捨てられたスーツに移した。
「なあ、ユウイチさん…なんで会社、やめさせられたんだよ?」
「上からの誘いを断ったら、翌日にはクビだった。分かりやすくて、あれには笑えたが」
「え、なんだよ、それ。断っただけでクビって、ひどいじゃん」
 誘いの意味を分かっていない冬希は、眉を寄せて憤る。
「女性はプライドを傷つけられると、豹変するからな。まあ、あの仕事は本職じゃないんで、別に構わないんだが」
「へー…よく分かんねえけど、女って怖いんだ……で、なんでスーツ着てたんだよ?」
「今朝、上司の倉科さんと会う約束が有ってな」
「ふーん…クラシナって、おれんとこの教授と同じ苗字だ」
「ありふれた苗字だからな」
 祐一の本職を知りたかったが、冬希は気がそぞろだった所為で、尋ねられなかった。
 彼が意味深に含み笑いしたのにも気づかないほど、祐一の中心部へと意識が集中していた。
 しっかりと勃起している、反り立つ太いそれを目にして、緊張感が強まる。



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