陶酔…11
「ゆーきくーん、久し振りだねぇ」
「えっ、三科さん?」
後部座席のドアを開けると、三科が嬉しそうに手をヒラヒラ振っていた。
顔を合わせなかった期間が続いていたから、優希は本当に三科なのかと訝しげに瞬きする。
三科はにこやかに微笑みながら、力強い腕で優希を車内へ引きずり込む。
ドアが閉まり、三科は運転席の金城に声を掛け、発車させた。
「ゆーきくん、会いたかったよ。これが高校生の制服? 似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。会いたかったって、三科さん、俺のこと避けてたんじゃ……?」
当然のように三科の膝の上へ座らせられ、優希はやや呆然としながら訊く。
「避ける? 僕がゆーきくんを? そんなの有り得ないでしょ」
きょとんとした表情をして、あっさり言い切る三科に、優希はなにも言えない。
三科の説明不足を補おうと、運転しながら金城が口を開いた。
「ここ最近は仕事や他の組との会合で忙しかったので、オヤジは会社に籠もりきりでしたからね」
「そうそう、中々家に戻れなくてねぇ……うん? もしかしてそれで勘違いしてたの? さびしい想いさせちゃった?」
三科が背中をさすったり頭を撫でたり、抱き締めて来て、優希は喜びで身体が少し震える。
温かくて、安心する。
駄目だと分かっていても衝動が抑えられず、三科に抱き着き、首元に顔を埋めた。
「か、金城。どうしよう、ゆーきくんがすごくかわいい」
「手ぇ出すんなら家に戻ってからにしてください。……チッ、腑抜けたオヤジめ」
「金城、ふつーに聞こえてるよ?」
二人のやり取りが聞こえたが、言葉の意味を深く考えず、もっと三科の温もりを感じたくて目を閉じた。
「ん……あ、あれ? すみません、俺、寝てましたか」
「いーよいーよ、ゆーきくんの寝顔見てたから」
気が付くと布団の中で、隣を見れば三科が横になっていた。
柔らかな表情で微笑み、自分を見つめてくれる三科に、優希の鼓動が速まる。
身体を密着させようと三科が腕に力を込めた途端、胸板に優希の手が挟まった。
「どうしたの、ゆーきくん」
不思議がる三科に対し、優希は真剣な表情で。
自分の本心を言うべきか、このまま黙って三科の温もりに浸っているべきか悩む。
温もりに浸るのも、三科にすべてを任せて流れに乗るのは、とても簡単な道だ。
だけどそれでは駄目だと、優希は思う。
三科に任せっきりの道では、いつか自分は三科に手放されるだろう、と。
自分の想いを打ち明ける道は……それまで自分が信念を抱いて進んできた道とは異なる。
でも、ふられても、好きな人にちゃんと告白した、という想い出があれば、誇れる気がする。
黙ったままの優希に対し、三科も口を開かずにずっと待っている。
それに気付いた優希はもう、溢れ出す想いを言葉にせずにはいられなかった。
「俺、三科さんが好きです」
「嬉しいなぁ。僕もゆーきくんが大好きだよ」
「そうじゃなくて……違くて。恋愛感情の意味で、好き……なんです」
顔を見ながら伝えると、三科の目が見開かれた。
優希の身体に回していた両手を解き、身を引く。
起き上がり、布団の上であぐらを掻いて真剣な表情で黙り込んだ三科に、優希は悲壮感を覚えた。
やはり三科は、そういう意味で、自分のことを好いてはいなかったんだろうと、血の気が引いてゆく。
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