陶酔…15


(あー……かわいいなぁ。色々シて乱れさせたくなるな……いや、その前に)
 片づけることが二つ有る、と双眸を細めた瞬間、優希に名を呼ばれる。
「あの、俺ってどういう立場になるんですか? 恋人、ですか? それともセフレ?」
「やーだなぁ、ゆーきくん僕の気持ち全然分かってないー。恋人に決まってるでしょ。いずれは僕の奥さんになって貰うけどね」
「お、奥さん!?」
「あれぇ? 僕の愛、届いてないのかなぁ。心にも身体にも、たっぷり届けてあげるね」
 あっさり転がされた優希の上へ覆いかぶさり、うっすらと舌なめずりする。
 ぞくりと身体の奥が熱く疼いたが、欲情に流されそうな自分をなんとか抑え込んで。
「だ、駄目です、三科さん。俺、学校に行かなきゃ」
「うん、行っていいよ。僕の手から逃れられるなら、ね」 
「三科さん……意地悪だ……」
 素肌に触れるその手を払えるわけもなく、恋人がくれる快感に溺れてしまう。
 単純過ぎるなと自嘲し掛けたが、そんな余裕も、直ぐに剥ぎ取られた。



 連日、遅刻が続いている為、今日こそは、と。
 三科が寝ている隙に、自室へ戻って制服に着替え、学校へ行く準備を急いで整える。
 玄関をそっと出たら、既に門の前で送迎車が待機していた。
 助手席に乗り込むと運転席に居たのは、金城だった。
 三科が乗っている車には常に彼の姿があったが、優希と二人というのは珍しい。
 なんとなく違和感を覚えたが、「学校まで、よろしくお願いします」といつものように挨拶し、シートベルトを締めた。
 金城はスマホをタップし、文字で誰かとやり取りしているようで、車は中々、発車しない。
「坊主、俺からの差し入れだ。これ飲んで、少し待っててくれ」
 ただ渡されるだけなら断っていたが、差し入れと言われたら無下には出来ない。
 優希は渡された水筒の蓋を開け、中から香る珈琲をカップ代わりの蓋に注ぐ。
 冷たくて美味しく、優希好みの丁度いい味だ。
 二杯目を飲み終えたあと、急激な眠気に襲われた。
 自分では抑えきれない、強烈過ぎる眠気に上手く舌が動かず、金城に問おうとした瞬間、意識が途切れた。


 重い瞼を開ければ、見知らぬ天井が視界に入った。
 驚いて飛び起きると、近くに誰かが居ることに気付き、視線を遣る。
 金城が、真面目な顔つきで座っていた。
「……悪いな、坊主」
「な、なにが……?」
 状況の説明を求めた瞬間、襖が開き、そこには、太った大柄の男が下卑た笑みを浮かべていた。
「大友さん、この坊主があんたの捜していた笹川のガキです」
 金城はやけに冷え切った声で紹介し、優希を大友の前に突き出す。
「ええのか? 勝手に連れてきて」
「はい。オヤジにはウンザリしたので、今後は大友さんのもとで動こうかと。笹川のガキは手土産です」
 優希には、なにがなんだか分からなかった。
 恐らく即効性の睡眠薬が、あの珈琲に入っていたのだろう。それは理解出来た。
 だが眼前の絶望的な状況は受け入れがたく、金城が三科を見限るなんてなにかの間違いであって欲しかった。
 とにもかくにも逃げようと、急いで立ち上がろうとする。
 大友は、体格に反して素早かった。
 優希の首を掴んで床に叩きつけ、上にのしかかってきた。
 顎を掴んで無理矢理、顔を向けさせられる。
「顔はまぁまぁやな。囲うまではいかんが、折角やし楽しませて貰おか」
 ジタバタもがくと、顔と腹部の両方を殴られた。
 三科が相手の時には感じなかった嫌悪感や恐怖、嘔吐感が込み上げて来る。



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