陶酔…16


「はなせっ、俺に触れるなっ」
 痛みに耐えながら抵抗し、大友を必死で殴り、蹴る。
 だがダメージは弱く、大友が顔を近づけて服をはぎ取って来るのを、とめられない。
「なにをするかは知っとるみたいやな、大人しゅうしとけば優しくしてやるで」
 大友の太い指が素肌を這い、胸の突起をいじる。
 快楽よりも恐怖がはるかに上回り、優希の身体はがくがくと震え、唇を?みしめる。
 乳首をねっとりと舐められ、嫌がる優希は大友の髪を掴んで引きはがそうと暴れた。
「大人しゅうしとけ、言うたやろおがっ!」
「あぐっ」
 大友の拳がみぞおちに入り、あまりの苦痛に息が出来ない。
 身動きがとれなくなった優希の蕾に、太い指が入る。
「うあっ、やめろっいやだっ!」
 叫んだつもりだが、声がかすれて大声が出せない。
「とんだ跳ね返りや。なあ? 笹川サンよう」
 大友の視線の先を見ると、男が一人、隅に縮こまって目を瞑り頭を抱えていた。
 あれほど執着していた父親を前にしても、優希はなんの感情も湧いて来なかった。
 ああ此処に居たのか、と。本当にそれだけしか感想は無く。
 苦痛に耐えている優希の前に、大友の牡がさらされた。
「舐めろ」
「い……やだ……噛みついて、やる」
「そんなんしたら、ぶち殺すぞ」
 大友は暴力で優希の反骨精神を折ろうと、髪を掴み、身体中を殴った。
「う……ッ」
 頭がくらくらして、耳鳴りがする。
 鼻や口から血が滴り落ちたが、優希は屈しない。
 大友に犯されるぐらいなら、舌を噛んで死んでやろうと自棄になりかけていたが、三科との約束がある限り、実行には移せない。
 ぼんやりする意識の中、遠くのほうで怒号が響いたが、優希は腫れた瞼が重く、視線を向けることも出来ない。
 部屋に乗り込んで来たのは、三科と組員達だった。
「なんやあ、てめえら」
 大友がドスの利いた声を出すが、三科は金城のほうへ顔を向けた。
「金城。俺の目を盗んで優希を連れ出したのは、こういうことか」
「オヤジ……これは……」
「言い訳は後で、絶縁状回す前に聞いてやる。おい、連れていけ」
 白橋と内山が両脇をかため、金城を抑え込みながら部屋から連れ出してゆく。
「さて。……大友さん」
 わざと間を少し置いて振り向く三科からは、場慣れしている雰囲気が漂っていた。
 大友もそれを感じ取り、やや尻込みした様子だ。
「今回は身内が失礼した。見ての通り、身内のゴタゴタなんで、処理はうちでさせてもらう。良いですね?」
 有無を言わさぬ空気に、大友は何も言えない。
「それと、彼は俺の恋人なので連れて帰ります。……色々と好き勝手してくれたみたいだが、今回は目を瞑ります。……だが次は無いと思って下さい」
「お、おう……分かったから、はよ、いねや」
 大友は優希をあっさり手放した。
 対面しただけで、三科には底の知れない狂気的な不穏さがあると分かり、本能が三科と関わるのは危険だと告げていたのだ。
 鳥井が急いで優希を抱き起こし、怪我を負った優希を見て怒りを露わにする。
 そんな鳥井の服を、引っ張る人間が居た。優希の父親だ。
「ゆ、優希、今はこの方々のお世話になっているのか? それならワシも……」
 あまりにもムシのいい手のひら返しに、三科と鳥井が眉を顰めた。
 身体中が激しく痛む為、大人しくされるがままになっていた優希だったが、父親が三科に近付こうとするのを見て、痛みに耐えながら間に割って入る。



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