陶酔…17
「……笹川さん、俺の恋人に指一本触れないでください」
立ちはだかる優希を見て、笹川は絶望感に陥る。
「ソイツ連れてくんやったら、話はまた変わるで」
「ひいっ、優希、助けてくれ」
大友が口を挟むと、笹川は見っともないほどに震え、助けを乞う。
――俺が、捨てるんだ。あんなに執着していた、父親を。
「アンタとはもう、親子でもなんでもないんだ。さようなら、笹川さん。二度と俺に関わらないでください」
きっぱりと言い放ち、優希は三科を呼ぶ。
三科は割れ物を扱うかのように慎重に優希を抱き上げ、振り向くこともせずにその場を去った。
重度の打撲で病院の世話になる羽目になったものの、通院するだけにとどまり、三科の家に戻ることが出来た。
瞼の腫れも数時間後には引き、日常に戻れたことにほっとする。
布団が敷かれた三科の部屋に通されると、着流し姿の三科が、優希を膝の上に座らせて優しく抱き締めてくれた。
「ごめんね、つらい思いさせて」
謝る三科に、優希は不思議がる。
「どうして三科さんが謝るんですか?」
「大友に金を払ってキミを買う方法も有ったけど、そういうの、キミ嫌いでしょ?」
「……そう、ですね。そんな風に扱われたらこの先、一生、負い目を感じてしまうと思います」
「うんうん、だから一芝居打つことにしてね。身内のゴタゴタなら、戦争にはならないだろうからねぇ」
「芝居? それじゃあ、金城さんは無罪なんですね。良かった……俺、皆さんの絆とか関係性が好きで心地いいから……崩れなくて、ほんとうに良かったです」
「ゆーきくん、いい子過ぎるでしょ。……大友が、キミに暴力振るうほどの乱暴者だとは知らなくてね。調べが足りなくて、ごめん」
三科は申し訳なさそうに眉根を寄せ、優希の頬を撫でる。
「謝らないでください。俺、頑張って抵抗したんですよ。三科さんとの約束を守り抜きました」
「そうだね……キミは強い子だよ、信じてくれてありがとう」
頭を撫でると、優希は嬉しそうにはにかんだ。
「それに、笹川を捨てた時のキミ、かっこよかったよ」
「三科さんのお陰です。……三科さんが、俺をここまで強くしてくれたんです」
「いじらしいなぁ。僕にはもったいないぐらいだねぇ。まあ、手放す気はもう無いけどね」
目を細める三科の表情に、鼓動が簡単に速まる。
「金で買ったら俺が嫌がるって……三科さんはほんとうに、俺のこと、良く分かっててくれて、俺のことを考えてくれて嬉しいです」
三科への愛情が深まった気がして、愛が深まり、大きく広がってゆく感覚に優希は吐息を洩らす。
愛情には上限が有るものだと考えていたので、この先も際限なく愛が深まるのだと思うと、優希の頬は熱を帯びる。
彼の後ろ首へ両腕を回して絡め、耳元に唇寄せ、優希が小声で伝える。
「あと俺、今回の件で分かったことが有って」
「うん?」
「三科さんが相手じゃないと、怖いだけで全然気持ち好くなれないみたいです」
「……本当にキミは、僕をいい気分にさせるのに長けてるねぇ。でも、暫くは安静にしないとね……おっと?」
三科の耳朶を柔らかく食み、優希は唇に吸い付く。
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