Sweet Valentine Night…12
「私の所為では無く、我慢出来なかった葵が悪いんだろう?」
上体を戻しながら吐かれた冷たい物言いに、葵の肩が小さく震える。
もしや怒らせてしまったのかと不安になる葵の前で、
彰人はワイシャツの胸ポケットからゴム製のコックリングを取り出した。
「お仕置きは、きちんとしないといけないだろう?」
「い、嫌…」
リングを目にした葵は、多少青褪めて不安げな表情を見せ、逃げ腰になる。
だが彰人はそんな彼を片腕で抱き寄せ、いとも簡単に捕らえてしまう。
「嫌だ、やだよ…っ、今日はお仕置き、やだっ」
今日と云う日をとても楽しみにしていて、その上、朝から自分の勘違いで彰人と不仲になって……
けれど仲を戻せたから、朝拒否した分だけ甘い雰囲気に酔いたかったと云うのに――――。
ちっとも上手く行かない事が悲しく、葵は否定しながら涙を零した。
「…葵、お前は本当に騙され易いな。冗談だから安心しなさい」
葵の頬を伝う涙を指で拭ってやりながら、彰人は薄く笑う。
予想外の言葉に思考が上手くついて行けず、何度か瞬きを繰り返した葵は、恐る恐る顔を上げる。
「お前はこの日を楽しみにしていたんだろう?そんな日に、つまらない事でお仕置きをする程、私は野暮じゃないよ」
クスクスと甘く笑いながら、彰人はシーツの上へとリングを無造作に投げ捨てる。
それを見た葵は睨むように彰人へ視線を戻し、相手の膝上へ詰め寄るように近付く。
「またそうやって僕の事からかって、彰人はキチクでヘンタ…ぁあッ…!」
いつの間にか双丘に回された手が、二本の指を唐突に
突き入れて来た所為で、云い掛けた言葉は喘ぎで消えてしまう。
しがみつくように彰人の肩を掴み、身体を震わせて文句すら言えなくなった葵が、愛らしい。
「先程の威勢の良さは、何処へ行ってしまったのかな?」
「はぁ、ん…あ、…ゃあっ…!」
指を更に増やされて内壁を掻き回され、耳元で可笑しそうに囁かれては、勢いなど掻き消えてしまう。
葵は縋り付くように自身を彰人の雄に擦り付け、夢中で腰を揺らし始めた。
けれど疼きは治まらず、彰人の指が動く度に強くなる一方で………。
「彰…彰人、やだっ、も…欲しい…っ」
泣きながら哀願し、余裕なく求めて、縋りついてしまう。
欲を激しく煽られる葵の姿に、彰人はゆっくりとネクタイを外し、シーツの上へ投げ捨てる。
「本当に、せっかちな子だ。おいで…自分から挿れて見せなさい、」
指を抜きながら告げ、彰人はシャツの釦も外して、前を開く。
眼にした鎖骨は、葵にいつも性的な魅力を感じさせる。
彰人を陶酔するように眺めながら、葵は掛けられた言葉に遅れつつも頷き、
逆らう気配も無いまま素直に腰を上げて身体をずらした。
片手で彰人の雄を支えて先端を蕾に当てがうと、入口に当たるその感触にさえ感じてしまい、淡い吐息が漏れる。
葵は押し付けるようにして腰を下ろすが、雁高の太いそれは挿入に手間取った。
なるべく力を抜き、深呼吸を繰り返してようやく先端を埋め込み、息を熱く乱しながら葵は腰を下ろしてゆく。
挿入には手間取ったと云うのに、入ってしまえば後はすんなりと呑み込み、
薬も効いているお陰か、侵入される圧迫感ですら快楽に変わった。
「ぅん…っ、父…さ、」
身体の奥が痺れるような甘い愉悦に、欲情の籠もった声が漏れる。
だが彰人は葵の声を耳にすると、名を呼ばれない事に対し、僅かに眉を寄せた。
「葵、こう云う時は何と呼ぶんだったかな、」
「んぁ、あぅ…うッ!」
一気に奥深くまで強引に下から突き上げられると甘い痺れが電流のように突き抜け、葵の身体が仰け反る。
背を伝う汗でシャツが肌に纏わりつくが、不快感よりも快楽の方が強い。
小ぶりな性器の先端からは先走りが滲み、彰人はそれを塗りつけるように、指で亀頭を撫でた。
「やあ…ぁ、ッぁ…ん…!」
薬の所為で過敏になっている身体は、それだけで爪先が震えて射精感が強まり、葵は幾度かかぶりを振る。
「過激な反応だな…」
「彰、人…これ、効き過ぎ…っ」
息を乱し、濡れた眼差しを向けて訴える葵を、彰人は眼を細めて眺める。
彰人の熱の籠もった眼差しにゾクゾクし、感じている顔を
その双眸で見られてしまうのが無性に恥ずかしく思えた葵は、咄嗟に俯いた。
だが彰人はそれを許さず、葵の顎を優しく掬い上げる。
「今思い出したが…効果は強い、と書いてあった気がするな」
「な…ッ」
信じられない、と云った表情で彰人を見遣るも、それ以上は言葉を出せず。
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