Sweet Valentine Night…13
少しと云った癖に、絶対知っていて使ったんだろうと考えると、
何か言ってやりたい気もするが、この状態では悪態もつけない。
余裕が有れば「この鬼畜っ」とでも云っていたかも知れないが、時間が経つにつれて疼きは強まり、
それをどうにかして欲しくて、葵はねだるように彰人の唇へと口付けた。
「も、何でもいいから…お願い…」
―――――イかせて。
弱々しく紡がれた言葉に、彰人はクスクスと甘く笑った。
「葵…本当にお前は、可愛らしいな」
満足気な口調で囁きながら、葵の腰を掴んで軽く揺さぶると、
葵は声を上げつつも少し濡れた瞳に物言いたげな色を浮かべた。
「はぁ…っ、ん…さっき、可愛くないって…んっぁ、言った…」
唇を尖らせて不満を露わにしたかったが、抽挿を繰り返されるとそれも出来ず、
開いた唇からは動きに合わせて、甘い声が零れるだけで―――。
「まだ気にしていたのか。全く、お前は…」
呆れている訳でも、怒っている声音でも無い。
そんな些細な事をひどく気にしたりするのは、彰人の云う言葉だからこそで……
無論それに気付いている彰人は、そんな葵が可愛くて仕方ないと思う。
だが葵はそう思われている事にすら、残念ながら気付いていない。
妙な所で、葵はひどく鈍い。
そこも悪くは無いが、何時かかえって仇とならないか、彰人には危うく思える。
「お前を可愛くないなどと、本気で思う訳が無いだろう…?」
吐息混じりに、低く魅力的な声色で囁くと葵の耳朶を軽く噛み、
好い箇所を的確に狙って思い切り突き上げる。
「ゃッあ、あっ、あ―…ッ!」
敏感な亀頭も指で強く擦り上げてやると、葵はきつく彰人にしがみつき、呆気なく熱を放った。
痙攣を続ける内壁の、心地好い締め付けに耐えられず、彰人も欲を吐き出す。
「あ…すご…っ、熱い…」
中を濡らされる感覚に陶酔の声を零し、葵の身体がヒクン…と切なげに震えた。
もう三度も絶頂を迎えたと云うのに倦怠感は無く、
欲情の火も消えず、葵の眼には物欲しそうな色が浮かぶ。
だが彰人は葵の腰を抱え上げるようにして雄を抜き、相手をシーツの中へゆっくりと押し倒した。
そのまま覆い被さって来るかと思いきや、彰人は乱れた前髪を緩やかに掻き上げるだけで――――。
「…彰、人…もう、しないの…?」
彰人の仕種に更に欲情した葵は上体を起こし掛けたが、
ワイシャツを脱ぎ始めた姿を眼にして、動きが止まる。
彰人の腹部には葵の白濁が飛び散っていて、それなのに
平然としている彰人に、逆に葵の方が恥ずかしくなってしまう。
眼を逸らし掛けたが、ワイシャツを脱いでスラックスも下着も脱ぎ去った彰人の姿に、眼が釘付けになる。
均整のとれた体躯は逞しく、筋肉が引き締まった身体つきは、何度眼にしても見惚れてしまう。
「彰人…」
淡い橙色の光が照らしている事も重なり、ひどく官能をくすぐる。
情欲の籠もった声色で名を呼ぶと、彰人は眼を細めてうっすらと微笑した。
「今朝の分も兼ねて、たっぷりと味わわせて貰うよ。」
甘過ぎる低い声音に、葵の鼓動が速まる。
葵が頷くよりも早く、彰人は相手に迫り、汗でぐっしょりと濡れているシャツを脱がしてやる。
脱がす際に、肩や首筋や鎖骨に何度も口付けをされ、
時にはキツく吸われ、葵の興奮は更に強まった。
直ぐに挿入せず、けれど興奮を冷めさせる事も無く焦らすように鬱血の痕を
刻んでゆく彰人に、葵は経験の差を強く感じる。
いつになれば、自分も彰人のような人間になれるのかと考えながら、
興奮で息を乱していた矢先にゆっくりと覆い被さられた。
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