I miss you…04
二人と一緒に居ると、少しだけ淋しさが和らぐし、安心する。
それでも、やっぱり一緒に居たいのは彰人なんだって言ったら、バチが当たるかも知れない。
――――僕は、欲張り過ぎるのかな。
こんな事なら子供の頃、彰人にもっと甘えて、我儘を沢山言っておけば良かったかも……って、今更そんな事を思っても、遅いけれど。
「……彰人の、バカ……」
思わず溜め息混じりに、小さな声で呟いてしまう。
一瞬、二人の口論が止まったから、聞こえてしまったのかも知れない。
幸い、発した言葉に二人は触れる事はせずに、僕を教室の前まで送ってくれた。
予鈴が鳴り、教室へ向かってゆく二人の姿を見送りながら、僕は再び脳裏に彰人の姿を思い浮かべる。
………さびしい。
そう実感すると涙がまた零れそうだから――――僕はそっと、目を伏せた。
授業は退屈で、身体はどんどん怠くなってゆくしで、素直に学校を休めば良かったかもと後悔した。
彰人から聞いた話だけれど、人間は後悔する生き物らしい。何かをしてもしなくても、後悔する。そんな生き物らしい。
……彰人も、後悔するのかな。僕と恋人同士になって、後悔とか……した事、有るのかな。
授業中、教員の言葉なんて全く耳に入らず、彰人のことばかり考えて、また気分を沈ませていた。
授業を終えた頃には気がひどく沈んで身体も重く、怠過ぎた為、四時限目の体育は流石に無理だと判断した僕は制服のままで見学する事に決めた。
広い体育館内で教員が来るまでの間、好き勝手に遊び始めている生徒達をぼんやりと見守る。
親衛隊の人達は同じクラスにも居る所為で、今も傍に居て、気遣いの言葉を何度も掛けてくれる。
一時限目が始まる前に少し具合が悪い事を告げたら、どうしてか余計に張り切られたけれど休み時間になった際、理由が漸く分かった。
誰が広めたのかは知らないけれど、学園の大半の生徒に僕の体調不良が伝わっていたのだ。
まるで弱った所を狙っているかのように、生徒の雰囲気が怪しいものに感じるのは、僕の勘違いって訳でも無いらしい。
今日はいつもより視線を浴びるし、教室を覗いて来る生徒の数も多いしで、正直疲れた。
彰人が学ぶようにと、奨めてくれた護身術も流石に体調が悪い時は使えず、集中力も欠けて思考力も弱まる。
体調が優れない時の心強い味方は本来なら雪之丞や南だけど、二人とも教室が違う為、護衛役の人達が頼りだったりする。
雪之丞は今日一日、授業をさぼると云ってくれたけれど、流石に友人にそこまでさせたくは無い。
「葵、やっぱり保健室でゆっくり休んでた方が良いんじゃねぇ?」
「何なら、俺が保健室に…」
「バーカ…お前と二人でなんか行かせるかよ。掟忘れんなよな、」
親衛隊の中では、決して破ってはいけない掟とかも有るらしく、正直云うと、居心地が悪そうだ。
それでも僕に近付ける機会が一般の生徒より多い為か、入る人は後を絶たないとか。
我ながら凄い人気だけれど、こんな僕の何処が良いのか、全く分からない。
眉目秀麗で品が良いとか、成績は優秀で性格も良いとか色々褒められているけれど、それは全部、演技なのに。
成績だって、家で予習や復習をしているだけだから、南みたいに勉強しなくても良い点を取れる程、秀才って訳でも無い。
本当の僕なんて愛想笑いばかりしていて、子供染みて、弱くて見っとも無くて、女々しくて情けない奴なのに。
「でも…僕、みんなと一緒に居たいから。心配してくれて、ありがとう」
一人になると、また彰人の事を色々考えちゃいそうで怖い。
悪い方へ悪い方へと考えちゃうから、自分で自分の首を絞めそうなんだもの。
だから保健室で休むことは断って、ついでに愛想笑いも振り撒いてみる。
僕が口にした科白か、それとも愛想笑いが直撃したのか、周囲に居た数人は顔を赤らめてしまった。
みんな少し大袈裟だと思うのは、僕だけなのかな。
可愛いと言われても、僕は雪之丞の方が全然可愛いと思うし……自分に自信なんて、いつまで経っても持てない。
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