I miss you…14

「ねぇ、彰人……その、あのさ…坂井、とは…」
「社長…坂井です。」
 少し躊躇いながらも坂井の名を口にした瞬間、社長室の扉が控え目にノックされた。
 扉の向こう側から聞こえた、急な呼びかけに心底驚いた僕は、焦り始める。
 彰人と僕が恋人同士だって事を坂井が知っているとは云え、この状況は流石に拙い。僕はまだ、彰人と繋がったままなのだ。
 それに格好だって、下半身は靴下以外何も纏っていないしで、間抜け過ぎる。
 先ずは彰人のを抜いてしまわないと。と、僕は慌てて腰を上げようとした――――けれど。

「ああっ…ん…ッ」
 腰を掴まれて前後に揺さぶられ、内部を擦られて声が零れてしまった。

 ―――――扉の向こう側には、坂井がいるのに。
 そう考えると強い焦燥感が込み上げて来て、押し戻そうと彰人の肩に手を添え、力を込める。
「あき、と…駄目だよ、ねぇ、ぬ…抜いて……っぁあ…、」
 いきなり突き上げられて奥を貫かれ、言葉は喘ぎで消えてしまう。
 その上、性器まで握り込まれてしまっては、抵抗する気なんて無くなってしまう訳で。
「ぅあ…っん、ん…く…」
 ゆっくりと自身を扱かれ、敏感な亀頭まで指で擦られた所為で、大きな声が出そうになり、僕は咄嗟に自分の口を両手で塞ぐ。
 すると彰人はどうしてか一度動きを止め、暫く僕にじっと視線を注いだ後、不意に、くくっと低い声で笑った。
「…相変わらず、煽り上手だな。」

 ――――煽ってもいないのに、彰人は何を言っているんだろう。
 疑問に思ったけれど、耳朶を緩く咬まれてじっくりと舌でなぞられると、何も考えられなくなる。
 性器をゆるゆると扱かれ、時折亀頭を指でぐりぐりと強く擦られて、身体が大きくのけぞった。
 腰をしきりに揺らし出した途端、彰人は目を細め、性器の根元をきつく握り込んできた。
「あ…ッ…うそ、彰人…なんで、」
 責めるように相手を睨むと、彼は口の端をうっすらと上げて意地の悪い笑みを見せた。
「外に坂井が居ると云うのに感じてしまうなんて、いけない子だ。……悪い子には、お仕置きをしないとな。」
「社長、どうなさいました?」
 彰人が低い声で囁いたのとほぼ同時に、扉の向こう側から坂井の声が響く。
 びくりと肩を跳ねさせてしまった僕の背を、彰人はまるで宥めるようにそっと撫でてくれたけれど、その心地好さに素直に浸ることなんて出来無い。

 ………このままじゃ、坂井が入って来ちゃうよ。
 今は入るな、と彰人が声を掛ければ、坂井は扉を開ける事も無く立ち去る筈なのに。
 彰人は坂井の存在なんて、まるで気にも留めていないかのように、僕を見据えている。

「葵、自分から動いて見せなさい」
「あ…」
 緩い律動をぴたりと止めて、彰人は甘い囁きを零す。
 動きを止められ、自然と残念そうな声を零してしまう自分が、ひどく情けなくも思えた。
 快楽にあっさりと溺れてしまう身体も、意思が弱いところも、嫌で仕方が無い。
 このままじゃ、いつか彰人に見放されてしまうんじゃないかとか、しょっちゅう考えたりもして
 気は沈んでいるのに、我慢出来ずに腰は揺れ始めるものだから……かなり、惨めだ。

「んっ…は、はぁ…ぅ…っん」
 口元から離した手を彰人の肩に乗せながら、なるべく声が漏れないように下唇を噛んで俯く。
 腰を上下に動かす度に、ぐちゅぐちゅと濡れた音が響いて羞恥心が強く煽られる。
 だけど、動きは止まらない。
 もっと快楽が欲しくて堪らず、ゆっくりと腰を回しながらも目は自然と、扉の方へ向いた。

 坂井に見られてしまったら、彰人はどうするんだろう。
 ひょっとして、坂井のことがやっぱり好きだから、煽りたいのだろうか。
 ……だとしたら、僕はいつか、お払い箱になってしまうのかも。

「葵…何を考えている?」
 自分の考えに胸を痛めた瞬間、顎をゆっくりと掴み上げられた。
 眼に映ったのは、彰人の、少し心配そうな表情。
 ほかの人が見たって、普通の表情にしか見えないけれど、長年一緒に居た仲だから僕にはその変化が良く分かる。
 感情をあまり顔に出さない彼の、その微妙な表情の変化に気付けるのは―――――どうか、僕だけしかいない事にして欲しい。


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