I miss you…17

「葵、」
「…っん…ぁ、」
 急に名を呼ばれて性器の先端を指でなぞられ、声が零れてしまう。
 慌てて目を開けた僕は、彼の腕をすぐさま掴んだ。
「駄目だよ、彰人。もうしちゃ、駄目」
 拒否の言葉を零すと、彰人は不満の色も浮かべることなく、あっさりと手を離す。
 此方を見据えてくる双眸から目を逸らし、浴室へと繋がる扉に向ける。
「そろそろ家に帰らないと…」
「そうだな。家に帰ってじっくりとした方が良い」
「え?なにを?」
「勿論、セックスに決まっているだろう。」
 薄い笑みが浮かんでいる口元から、さらりと臆面なく、品の無い言葉が零れる。

 ぎゃーっ、どうして、そんなに恥ずかしい言葉を口にできるの!
 なんて言葉は呑み込んで、僕は彼をまじまじと見つめた。

「か、帰るの?彰人も?だって…」
 上擦った声を零し、仕事は?と問い掛けた僕の唇を、彼は急に口付けで塞いで来た。
 軽く吸い上げるようなキスをした後、まるで惜しむようにゆっくりと唇を離した彼は、うっすらと口元を緩める。
「離れちゃ嫌だと、駄々をこねたのは…何処の誰だ?」
「う……ぼ、僕です」
 セックスの最中に、泣きじゃくりながら言っていた自分を思い出し、顔が熱くなる。
「で、でも彰人、仕事が忙しいんじゃないの?」
「大半のものは片付けた。残りのものは私で無くとも出来るからな…坂井に押し付けてやればいい」
 ………坂井、ちょっと可哀想。
 きっと彰人の事だから仕事を押し付けて、『こんな事も出来ないなら、私の秘書は務まらないな』とか言うのかも知れない。
 それで、彰人のもとで働く事に誇りを持っている真面目な坂井の事だから、快諾しちゃうんだろうな。

「あ、あれ…じゃあ、一緒に帰れるの?今日はずっと一緒に居てくれるの?」
 冗談だ、とか、嘘だ、何て言われたら当分立ち直れないなと考えながらも
 込み上げて来る強い期待感は抑えきれず、彰人をじっと見つめてしまう。
「困った子だ。先程から、そう言っているだろう」
 困った子、と言いつつも、彰人の口調も表情も、優しい。
 それがひどく嬉しくて、幸福感で胸が熱くなった。
 口元が緩むのを堪え切れず、笑みを零した瞬間、身体をいきなり抱き上げられる。

「先ずは、身体を綺麗にしないとな」
「…え?あ、彰人も一緒に入るの?」
「私と一緒では不満か、」
 魅力的な低い声音を掛けられて、僕はすぐに返答を口に出来なかった。
 大体、彼と一緒にお風呂なんか入っちゃったら、またいやらしい事をしてしまうに決まっている。
 この人、僕が風邪引いてるって事、ちゃんと覚えているのかな。

「葵、たっぷり可愛がってやるからな…」
 一人で考え込んでいる僕には構うことなく、彼は薄く笑いながら甘く囁く。
 ああ、やっぱりこの人って鬼畜だ…なんて考えるけれど、逆らう気力なんて無い僕は抵抗する事も出来ず、浴室へと連れ込まれていった。



 散々彰人に可愛がられて力尽きた僕は、制服が汚れた所為で着るものも無く、全裸のまま仮眠室のベッドへ寝かされた。
 タオルケットを掛けた後、彰人はベッドから少し離れた位置に向かって内線を使い、僕の代わりの服を持って来るようにと坂井に手配し始める。
 ちゃっかりと坂井に仕事を押し付けながら、濡れた髪をタオルで拭いている彼の姿に、視線が釘付けになった。
 湯上りの彰人は、ひどくセクシーだと、僕はいつも思う。
 ワイシャツの上の方の釦は止めていないものだから、前が開いてしまっているし
 綺麗な鎖骨もはっきりと見えるしで、つい、むらむらとしてしまう。
 自分が節操無しな人間に思えて慌てて視線を逸らすと、彰人が近付いて来て、僕の髪へ緩やかに指を絡めだした。
「具合はどうだ、」
「…身体、ダルイ…」
 普段より優しい声音で訊かれ、強い幸福感で返答が少し遅れたものの、小さな声で言葉を返す。
 すると彰人は、くすりと甘く笑って、切れ長の双眸をほんの少し細めた。
「あれだけ感じまくって達けば、誰でも怠くなるだろう。」
「……彰人、下品」
 眉を寄せて咎めるけれど、彰人の穏和な雰囲気は変わらず、綺麗な指で優しく僕の髪を梳いてくれている。


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