I miss you…18
あの有名大企業、藤堂グループの社長サマが、僕の前ではこんな言葉を口にしているだなんて誰が想像出来るだろう。
女性に対しては特に紳士的で、品の有る言葉を放つ形の良い唇は、僕のアレを何度も咥え込んじゃってるし…。
そう思うと、いやらしい記憶が次々に脳裏に浮かんで、次第に下肢へ熱が溜まってしまう僕って、変態なのかな。
「葵、下品なのはどちらだろうな?」
「…ん…っ」
彰人が見抜いたように、勃ち始めた節操無しな僕の性器を、バスタオルの上からほんの少しさすって来た。
すぐに手を離されて物足りなさが込み上げ、もっと触れて欲しい欲求が強く芽生えて来る。
彰人が相手だと直ぐに興奮しちゃう僕って、変態って云うより――――。
「本当に淫乱だな。おまえは…」
まるで僕の考えを見透かしたかのように、彰人が薄く笑いながら囁く。
「ち、違…淫乱なんかじゃ…」
慌ててかぶりを振って必死で否定して見せると、彰人は珍しく、愉しそうに笑い声を立てた。
そう云う風に笑う彰人の姿は珍しく、僕は思わず彼に視線を注いでしまう。
「……そんなに物欲しそうな表情をするな。それとも、襲って欲しいのか?」
軽く放心して見惚れていると、彼の指が目元をゆっくりとなぞって来た。
一瞬何を言われたのか分からずにいたけれど、少し遅れてから理解し、同時に、かぁっと熱が急上昇する。
「そんな顔してないよっ…そ、それに、お…襲って欲しいなんて…」
「私を見ている時のおまえは、いつも物欲しそうな顔をしているが…気付いていないのか、」
「う、嘘…っ」
衝撃的な言葉を掛けられて、慌てふためいた。
もし彼の云う通り、物欲しそうな表情を浮かべていたとしたら……かなり、恥ずかしすぎる。
思わず胸中で溜め息を零すと、彰人は何かを思い出したように僕の名を呼んで、ひどく整った顔を近付けて来た。
唇が触れそうなほど、とまではいかないけれど、距離が近過ぎて、どきどきする。
「明日から暫くは、家で大人しくしていなさい」
「え?で、でも…」
掛けられた言葉にすぐさま頷くことは出来ず、僕は彼から視線を逸らしてしまう。
心配してくれているからこそ、そう言ってくれているのは分かるけれど………正直、彰人を強く思い出してしまうあの家に、一人で居たくない。
彼の居ない家は、あまりにも、さびし過ぎる。
眉を寄せ、気が少し重くなるのを感じていると、彰人が浅く溜め息を吐いた。
「折角私が四日も休暇を得たんだ。看病ぐらい、させて貰わないとな」
…………え?
彰人の言葉が耳に入って、だけど俄かには信じられなくて、僕は素早く視線を戻す。
眼に映った彰人の表情は、ひどく優しいものに見えた。
「本当は、もっと早く片付けるつもりだったんだが…新プロジェクトの打ち合わせも入ってしまって、予定より遅くなった。」
「片付けるって…仕事?もしかして、休みを取る為に頑張ってたの?」
「ああ。少なくとも月に一度ぐらいは、一日中おまえの傍に居ないと気が休まらないからな。」
「彰人…」
彼の言葉が嬉しすぎて、あまりにも幸せで、胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
気を抜けば幸せで泣いてしまいそうだから、ぐっと堪えていると、彰人が控えめな笑い声を零した。
「それと、もう一つ良い知らせがある。有能な部下が何人か増えるお陰で、私も随分楽になるからな…多忙で帰れない、なんて事は、かなり減ると思うぞ。休みも今まで以上に取れ…」
まだ言い終わらない内に、僕は彼の首に腕を絡めて抱き付いた。
嬉しくて嬉しくて、たまらない。幸せ過ぎて、変になってしまいそうだ。
抑えきれずに涙が溢れてしまうけれど、僕はそれを拭うことも隠すこともしないまま、彰人の肩口へ顔をすり寄せた。
「ね…僕、僕…彰人が世界で一番大好きだよ、ほんとだよ」
泣きじゃくりながら言葉を紡ぐ僕の頭を、彰人は優しく撫でてくれるものだから余計に、甘えたい気分になる。
心地好い幸福感に、このまま死んでもいいとすら思ってしまう僕はきっと、彰人がいなくなったら生きていけない。
「私も、おまえだけを想っているよ。………もうおまえしか、愛せない」
耳元で甘く囁いてから、彼はそっと、口付けをくれた。
何度も口付けを繰り返す彰人が、これ以上ないってぐらいに、僕を幸せにしてくれる。
彰人の甘い言葉も、魅力的な優しい微笑みも、熱い眼差しですら
僕はきっと………死ぬまで、忘れない。
終。
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