Forget me not…33
「彰人…好きだよ…大好き…」
息を乱しながら告白すると、彰人はその端整な顔に、柔らかな微笑を浮かべた。
その微笑みは僕だけに向けられるもので……そう考えると幸せ過ぎて、頭が変になりそうだ。
「愛しているよ、葵…」
「ひっ、ぁあ…ッ」
僕の太腿を持って甘く囁くと、彰人はグッと腰を突き入れて来た。
あまりの快感と嬉しさに、涙が零れる。
鮮烈で甘過ぎる快感に浸っていると、直ぐに最奥を荒々しく突き上げられる。
甘い疼きを残しながら引いては、激しく最奥まで貫いて来る感覚が気持ち好くて……
僕は自分から彰人の唇を舐め、その冷たい唇にキスをした。
想いを伝えるようにきつく吸って、軽く咬み付く。
「んっん、ふ…んぁっあ…っ!」
まるでそれを褒めてくれるみたいに、彰人は腰を巧みにグラインドさせて打ち付けて来る。
しかも彰人の引き締まった腹筋で、僕の小ぶりな性器は擦られるものだから、限界なんて直ぐにやって来てしまう訳で。
「お前を手放す気など、一生無い…」
頭の中が真っ白になって何も考えられなくなったその時、彰人の低く甘い声が耳に響いて…
僕は幸せに包まれながら、何度もコクコクと頷いて、自ら腰を揺らし続けた。
何度も彰人の凄いモノで貫かれ、やっと行為が終わって
乱れた布団の上でぐったりしていると、聞きなれた音が室内に響いた。
彰人の、携帯の着信音だ。
枕元に無造作に置かれて、振動しながら鳴り響いている携帯へと、彰人の手がゆっくりと伸びる。
浴衣の乱れを直して前髪を掻き上げ、魅力的な仕種を見せた彼は、軽い溜め息を吐いた。
「坂井か…急用みたいだな」
鳴り響いている携帯電話を見つめながら呟く彰人を見て、一気に淋しくなる。
社長室で鳴り響いた携帯電話を取った彰人は、僕を置いて行ってしまったもの。
きっとまた置いてかれるんだと思うと、胸が痛い。
でも、もう十分だった。
あと数分で僕の誕生日だけれど――――幸せだったから、本当にもう十分だった。
少し早い誕生日プレゼントだと思えば良いもの。
また彰人と、仲直り出来て幸せだもの。
そう考えて彰人に、電話に出ても良いよ、と目で訴えた。
けれど彰人は、携帯の電源を僕の目の前で切って、無造作にそれを畳の上へと投げ捨てた。
「彰…人…?」
「お前の方が大切だ」
目を眇めながら甘く囁かれ、頭を優しく撫でてくれた。
あまりの嬉しさで、頭が変になりそうだった。
「で、でも…社長なのに…」
大変なんじゃ…と言いかける僕の唇を、彰人はそっと奪って来た。
鼓動が速まって、カァッと体温が上昇する。
「社長で在る前に、私はお前の恋人だ…」
唇をそっと離して囁かれ、唇に彼の吐息が掛かる。
その甘い言葉に、身体が痺れるような感覚を得て、何とか彼の首へと抱き付いた。
「彰人…大好きだよ…」
語尾は震えて、涙が零れた。
もう、カッコ悪いとか、見っとも無いとか思えなかった。
ただ…僕が流す涙は、彰人に喜びを伝えるものだって思えた。
泣く程嬉しいのだって事を、最大の喜びを得ている事を、彼に伝える事が出来るものだ。
そう思うと、泣いている事は全然、見っとも無い事だとは思えなくて。
「葵…誕生日、おめでとう」
傍に置かれていた腕時計をチラリと見ると、日付は変わっていた。
額に優しくキスをされて…視線が絡み合う。
世間じゃクリスマスなのに、彰人は僕の誕生日を祝ってくれる。
それが無性に嬉しくて、僕は涙を拭って、そっと微笑んだ。
「キスして…」
自分の唇から漏れる甘い言葉に、彰人の目が魅力的に細められる。
整った魅力的でハンサムな顔が、焦らずにゆっくりと近付いて…
「…何よりも、お前が一番だよ」
唇が触れるか触れないかの位置で、吐息混じりに甘く囁かれる。
幸せ過ぎて、今この場で、死んでも良いくらいだった。
何度もキスをねだって、唇を重ね合わせて、お互いの熱を確かめ合うように抱き合って…
外では、彰人と二人で見たいと願っていた真っ白な雪が
――――――静かに、降り続いていた。
終。
32 / 後書き
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