昔歳…8

 だが、優しい兄にまたしても迷惑を掛けたのでは無いかと不安になり、凪はいつものように、口癖となっている謝罪の言葉を弱々しく零す。
 謝罪されると猛は苦笑し、手を動かして凪の柔らかな頬へ手を添えた。
「凪…俺は謝って貰うより、礼を云われた方が嬉しいな」
「う、うん…お兄ちゃん、あ…ありが、とう」
 言い慣れていない言葉を少しはにかみながら口にすると、猛は凪を眩しそうに眺め、軽く頷く。
 どういたしまして、と優しい声色を放つ猛の表情は、この上なく穏やかで柔らかい。
 凪が発するだけで何気ない言葉すら、猛には温かく感じられた。

「あ、あのね…お兄ちゃん…」
 幸せに酔っている猛の耳に、震えた声が響く。
 凪は視線を落とし、何処と無く云い難そうに柔らかな唇を薄く開き掛けては、少し間を置いた上で直ぐに閉じてしまう。
「…どうしたんだ?」
 不安はもう全て取り除いたとばかり思っていた猛は、すぐさま怪訝な顔付きになる。
 隠している下着は後で洗うと言ったし、両親には秘密にしていると約束まで交わした。
 他に何か有っただろうかと思案した猛は、ようやく、凪が理解出来る説明をしていなかった事に気付く。
 凪はまだ、あの液体が何なのか、理解していないのだろう。
 肝心な事を言い忘れて、凪に不安を抱かせたままだった事に苛立ち、猛は胸中で舌打ちを零す。
 説明しようと猛が言葉を放つよりも前に、凪は意を決したように目線を上げ、此方を真剣な眼差しで見つめて来た。
「あ…あの、白いのって……ぼく、や…やっぱり病気、なの?どこか…変、なの?」
 言葉を放っている内に、不安になった所為で凪は徐々に泣きそうな表情を浮かべ、身体を微かに震わせ始めた。
 思った通り、凪はそこに、一番悩んでいたのだ。
 凪を少しでも安心させてやろうと、猛は優しく微笑み掛けながら、どう説明するべきかを思案した。
「心配しなくても平気だよ。さっきも云ったように、あれは出しても良いものだから」
「でも、ぼくだけ…」
「凪…あれは男なら、みんな出るものだからさ。だから、安心して良いんだよ」
 穏やかな口調で言葉を掛けるが、凪はまだ安心出来無いのか、眉根を寄せて視線を落とす。

 何も知らない、無垢な凪を見ていると、猛の中で抑えていた欲望が、再び蠢き始める。
 一人で処理をする方法すら知らない、この純粋な弟に、その方法を教えてやりたいと心から思う。
 今直ぐ凪を犯す訳でも無いし、飽く迄教えると云う事なのだから、凪が自分を嫌いになる事は有り得ないだろう。
 それに今の内から、快楽を教えておくと云うのも、悪くは無い。
 考えるが早いか、猛は唐突に凪の手を緩く掴み、にこやかに微笑み掛けた。
「……良い機会だし、ちゃんと教えてあげるよ。おいで、」
「お、お兄ちゃん?」
 おいでと口にしながらも猛は掴んだ手を強引に引き、自分の膝上へと凪を後ろ向きに座らせる。
 上手く状況が掴めず、肩越しに振り返って此方を見上げて来る凪を眼にし、猛は口元を緩ませた。
 手を動かして凪の片足を掴み、小さな耳元へ唇を寄せる。
「父さんと母さんには、内緒だよ…」
 甘い声色で囁くと同時に、凪の足を強引に開かせ、片手を素早く彼の股間へと滑り込ませた。
「えっ、な…なにっ」
 驚き、動揺する相手には構わず、小ぶりな性器を包み込むように握ると凪は一瞬息を呑んだ。
 何をされるのか全く理解出来ない凪の、此方を見上げて来る瞳には、怯えの色がはっきりと浮かぶ。
 けれど猛は何も答える事無く、自分の手中に簡単に収まってしまうそれの感触を、愉しむように緩く揉み始めた。
「ひ…っ」
 凪の唇から零れた悲鳴を、猛は聞き逃す事無く耳に入れ、含み笑いを零す。
 そのまま幼い性器を上下にゆっくりと擦ってやると、凪は背を丸め、嫌々とかぶりを振った。
「やだ、お兄ちゃ…ん、」
 不安げな声音が室内に響くが、声とは裏腹に、初めて他人からの刺激を受ける性器は徐々に弾力を帯び始めてゆく。
 手の中で硬くなって熱を上げてゆく小さなソレの感触に、猛は口元が緩むのを堪えられずにいた。
「これは自慰とかセルフプレジャーとか云って、別に恐い事じゃないよ。男は殆どやっている事だし、自分の身体の事をちゃんと理解する方法でも有るんだ」
 凪の怯えを取り除いてやろうと、言い包めるような言葉を掛け、説明を続ける。
「男は此処を刺激されると気持ち好くなって、限界になると凪の下着に付いていたような、白いのが出るんだよ」


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