昔歳…9

「ん…っ…ぁあッ」
 説明しながら親指を動かし、指の腹で小さな性器の先端を撫でてやると、一際高い声が上がった。
 凪の細い両手が、まるでしがみつくように猛の腕を掴み、膝は閉じようと動く。
 だが猛はそれを許さず、凪の片膝をしっかりと掴んで離さずにいた。
 少し擦る速度を上げると完璧に勃ち上がった幼い性器は、先端から透明な蜜を溢れさせる。
「ほら、凪…もう濡れて来た。気持ち好いんだろう?」
「わ、わかんな…、」
 かぶりを振りながら答える凪を見て、猛は微かに舌なめずりする。
 指を先端から少し離すと、透明な蜜が糸を引き、猛の情欲を掻き立てた。
「や…だ…お兄ちゃ、何か…変、だよぅ…」
「それが気持ち好いって事だよ、凪」
 今にも泣きそうな声で訴える凪の耳元へ唇を寄せ、甘い声色で囁く。
 ふと思い付いたように軽く息を吹き掛けると、凪の身体はビクリと跳ねた。
 額に汗を浮かばせて頬を赤く染め、濡れた眼差しで此方を見上げて来る凪の姿に、猛は思わず唾を呑む。
「…凪、」
「やっ、ゃ…ん、あ…!」
 今まで目にした事の無い凪の姿に劣情が激しく煽られ、凪の性器を少し強く扱き上げた刹那、傍らから羽音のような音が響く。
 咄嗟に手を止めると、凪は華奢な身体をヒクンと震わせた後脱力し、猛の胸へ深く凭れ掛かった。
 凪の膝から手を離して携帯電話を取り出した猛は、画面に吾妻一の番号が表示されているのを目にして眉を顰める。
 一番邪魔されたくは無い所で邪魔が入った事に、苛立ちを隠しきれず、大きな舌打ちを零す。
「凪、悪い…兄貴からだ」
 惜しむようにゆっくりと、濡れた性器から手を離し、凪の髪へあやすように口付ける。
 息を乱しながら軽い放心状態になっていた凪は、ようやく我に返り、すぐさま猛の膝上から立ち上がった。

「ぼ…ぼく、先に…お風呂、入ってるね…っ」
 猛の方を全く見ようとはせずに、赤らんだ顔を反らしながら凪は早口で言葉を放ち、逃げるように猛から離れようとする。
 その態度を前にして激しい独占欲と苛立ちが込み上げ、猛は唐突に、凪の細い腕を掴んだ。
「凪、駄目だ。逃がさない…」
 眉根を寄せ、低い声色で囁くと力任せに凪の腕を引き、再度自分の膝上へ乗せてやる。
 逃がすまいと片手で凪の身体を抱き、振動を続けている携帯を一度強く握り閉めてから、猛は不機嫌な表情でようやく電話に出た。
「遅いで猛。俺の電話は5回コールまでには出ろと、何時も言うとるやろが」
「…すんません」
「偉く素直やな。何時もの減らず口は何処に行きよった、」
 真っ先に謝罪の言葉を零した事を訝る吾妻に、猛は苛立ちを隠しきれない。
 それまで呆然と猛を見上げていた凪は、猛が吾妻と会話をし始めると、すぐに俯く。
 いつも自分だけに優しくしてくれて、何よりも自分を優先してくれる筈の兄が、吾妻との会話だけは譲らない事を凪は淋しく思う。
 仕事の上司なのだから、それは仕方の無い事だと分かっては居るが、まだ幼い心は理性より感情の方が上回る。

「兄貴、用件を早く言って下さい」
 俯いた凪に気付いた猛は、いささか焦り始めた。
 やはり、中途半端の状態では苦しいのだろう。
 早く通話を終わらせて凪を一度楽にしてやった後、じっくりと可愛がってやりたいと考えながら、吾妻を急かす。
「何や…弟がどうかしたんか?」
 鋭い吾妻の問いを耳にしても、猛は動揺する気配も無い。
 このままでは辛いであろう凪の事が気掛かりで仕方なく、吾妻の話もろくに聞いて居なかった。
 自分の問いに答えず、黙ったままの猛に大きな舌打ちを零すが、猛だけに寛大な吾妻は、本気で腹を立てる事は滅多に無い。

 吾妻からして見れば、狂犬と呼ばれている猛は吾妻組の要で有り、居なくてはならない存在だ。
 自由奔放で扱い難い奴だが、躊躇い無くその手を汚す上、敵対組織の邪魔な人間をきっちり片付けてくれる。
 ヤクザに必要なものは、殺しと暴力だと考えている吾妻に取って、その二つを兼ね揃えている猛は決して手放す気の起きない存在となっていた。
 ……………猛が居れば、ウチはまだまだ伸びる。
 心の底からそう強く思っている所為で、吾妻の態度は常に猛贔屓のものとなる。

「まあ、ええわ。…お前この前、多賀んトコの下っ端数人、殺ったやろ」
「そんな事、しましたっけ?」
 全く関心を持たず、殺した人間の事を覚えても居ない猛に呆れ、吾妻は深く溜め息を吐く。


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