昔歳…10

「凪が、攫われた時の事や。」
「ああ…そんな事も有りましたね」
 猛は想起する事もせず、俯いたままの凪だけを見つめていたが
 凪に関しての話題を耳にすると途端に頭を働かせ、素早く思い出す。
 が、吾妻との会話をさっさと終わらせたい為に、余計な言葉を挟まず、短い言葉だけを返した。

 多賀組の下っ端連中が以前、吾妻組の行動隊長である水嶋猛の唯一の弱点とも云える凪を、連れ去った事が有った。
 指定された場所に赴くと、弟を返す代わりに猛のシマと利権をよこすよう交換条件を出して来た連中の事を、猛は思い浮かべる。

 ――――――馬鹿な奴らだった。
 凪を攫っておいて、無事で済むと思っていたのだから、甘いにも程が有る。

 俺が拳銃を突きつけた時の、あいつらの表情……滑稽だったな。
 仲間を一人殺してやると、残った連中は青褪めて震え出した。
 まるで腰抜けのように逃げ惑う男達の姿は、思い出すと笑いが込み上げて来る。

「あれは向こうが、好き勝手やってたからっすよ」
 暗い眼をしながら喉奥で笑い、悪びれた様子も無く淡々と告げる。
 すると吾妻は、それでええんやと返し、豪快な笑い声を上げた。
「お前はホンマに、ええ根性しとるの」
 満足げに言葉を掛けた後、吾妻は再度、豪快に笑い出した。
 吾妻の笑い声が電話を耳に直接当ててもいないのに聞こえ、凪は寂しげに眉を寄せる。
 今までそうだったように、あの人との電話は長く掛かるだろう。
 そう考えると寂しさが更に強まるものの、凪は別の感覚に悩まされる。
 途中で刺激を止められた所為で勃ち上がったままの性器は、疼きが一向に治まらない。
 勃ち上がったソレを目にすると、猛がしてくれた先程の行為ばかりが頭の中を巡り、身体の熱を余計に上げてゆく。
 落ち着かないように少し身体を捩るものの、猛の力強い腕がしっかりと自分を抱き締めている所為で、動けない。
 凪は更に深く俯き、猛の腕を緩く掴んで悩ましげに眉を寄せた。

「それでなぁ、多賀がお前に会いたい言うとるんや。…多賀の事や、ナメられて面子が立たんのやろ。お前殺らな、気が済まんのとちゃうか」
「つまり、俺に死ねって言いたいんすか?」
 猛の言葉に、凪の肩がピクリと跳ねた。
 恐る恐る顔を上げて肩越しに振り向き、猛を不安げに見上げる。
 先程の行為の所為で、その顔はまだ赤らみ、瞳は微かに濡れていて………凪の姿と不安げな表情は、簡単に猛の欲を誘った。
 腕を掴んでいた凪の手は小さく震え出すものの、何処にも行って欲しく無いとでも云うように、更に強く腕を掴んで来る。
 凪の姿があまりにもいじらしく思え、猛の中で強い悪戯心が芽生えた。
 携帯電話を肩に挟んで手を動かし、まだ勃ち上がったままの小さな性器を包み込むように握ると、凪の身体がビクリと跳ねる。
 不安げな表情は一驚の混じったものに変わり、握られた性器へ顔を向け、続いて猛へと顔を向け直す。
 戸惑いながら交互に、此方と握り込まれた箇所へ何度も顔を向ける姿が、可愛くて堪らない。

「お前はうちの要や。多賀のアホなんぞには、殺らせん」
 吾妻の下らない返答を普段なら疎ましく思うが、凪の事しか頭に無い今は、何も感じない。
 猛は口元にうっすらと笑みを浮かべ、凪の反応を愉しむように、手を動かし始めた。
「ひっ」
 途端に、小さな悲鳴が上がる。
 慌てながら口を両手で塞ぎ始めた凪の姿に、ひどく煽られる。
「ん?何や…、」
 訝る吾妻の問いが耳に入るが猛は答える気も起きず、幼い性器を緩やかに扱き上げてやった。
 感じ易いのか、過敏な反応を見せる凪が堪らなく愛らしく感じ、今は凪だけに集中したいとすら思う。
「ぁ、…ッ」
 口を懸命に塞ぎながら必死で声を抑え、凪はただ首を弱々しく振る事しか出来ずに居た。

 先程、吾妻の笑い声が聞こえて来たのだ。
 それはつまり、大きな声を出してしまえば、向こう側にも聴こえてしまうと云う事で………
 こんな恥ずかしい声を人に、しかも良く遊びに来る吾妻には聞かれたく無いと考え、凪は哀願するように濡れた眼差しを猛へ向ける。
 だが、熱の中心を上下に擦る手は、非情にも速度を上げた。
「ひぅ…ん…っ」
 芯から熱くなった身体は汗ばみ、亀頭を指で撫でられると甘い痺れが走り、爪先に力が籠もる。
 口は相変わらず塞いだままだったが、凪はもう首を振れずにいた。
 目を瞑って背を丸め、前屈みになり始めた凪を見て、猛はそろそろ限界が近いのだろうと判断する。


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