告白…11
「だって僕は、貴方に飼われているんだもの。飼い主に礼をあげるのが、僕の役目でしょう?」
皮肉めいた口調で言葉を放つと、彼はまるで思案するように、一度視線を逸らした。
恐らく、自分の云った言葉を思い出しているのだろう。
凌が口にしたあの言葉を、僕は絶対に忘れない。
飼ってやっている、と言ったあの言葉を訂正するまで、僕は自分を飼われている存在だと云い続ける事を、決めた。
「だが、昨日あれだけ抱いてやっただろう。今朝も一度した筈だ。…まだ足りないのか、」
「凌…間違えないで。抱かせてあげたんだよ。それに……一度じゃ足りない身体にしたのは、何処の誰?」
責めるように言って口元を緩めると相手は逆に苦笑し、僕の腰へ片腕を回して半ば強引に引き寄せた。
まるで子供のように膝上に座らされて、少し不満気に相手を見上げると、凌は何処と無く愉しげな笑みを浮かべている。
「凌だって、一回じゃ足りない癖に、」
何が愉しいのか分からず、少し不満を感じながら、揶揄を含めた言葉をわざと放ってやった。
他組織から恐れられている海藤凌の姿が、僕の前では無くなる瞬間を堪能したくて
僕は、彼にとって特別なんだと実感したくて………つい、生意気な口を利いてしまう。
「……そうだな、」
短く肯定の言葉を放つと、凌は不意に、唇を重ねて来た。
自分の唇に、冷たくて柔らかい感触が触れる事に、ぞくぞくする。
キスをして貰えるのが、すごく好きでたまらない。
だけどそれは、相手が凌じゃないと、駄目だ。
「凌…、ん…っ」
相手の身体に手を回す事も、しがみつく事もせずに、僕は彼のネクタイを軽く引っ張ってやる。
まるでそれが合図だったように、相手はゆっくりと唇を離した。
同時に、視界が急に反転して、広いソファの上へ転がされる。
上に覆い被さって、此方を見下ろしている男の、精悍で整った顔が逆光で良く見えない。
もっと顔を近付けて欲しいと考えた矢先に、相手は距離を縮め、僕の耳朶に軽く咬みついた。
「はぁ…っあ、」
耳朶を舐められ、軽く吐息を吹き掛けられただけで、心地好い寒気が背筋に走る。
凌は満足そうに低い笑い声を立て、片手で器用に、僕のシャツの釦を外してゆく。
無骨な指が首筋をなぞり、鎖骨ら辺を執拗に撫でて来るものだから、僕は堪らずに身を捩った。
彼がなぞっている箇所に、何が有るのかは知っている。
昨夜何度も、身体中のあちこちに、所有の印を刻まれたのだ。
まるで僕自身を、自分の物だと確認するかのように彼はいつも、自分が付けた印を指でなぞる。
そんな男の行動がとても可笑しくて、笑いそうになるのを堪えながら、僕は唇を動かした。
「ねぇ…凌は、僕の事が好きで仕方ないんでしょう?」
初めて口にした問いは、思ったより、流暢に零れ落ちた。
相手は驚いたように身体を離し、目を見開いて僕を見据えて来る。
凌は今まで、僕に向けて想いを口にした事なんて無いのだから、嘘を吐いて逃げるかも知れないなと、思う。
が、相手は観念したように口角を上げ、軽い笑みを浮かべて見せた。
「……ああ。まさか俺まで、男に惚れるとはな……組長に、似なくて良い所まで似たようだ」
自嘲気味に吐き捨てながらも、彼の指は、僕の平らな胸元を滑ってゆく。
樋口組長が、一人の男を囲っていると云う話は、僕も聞いた事が有る。
凌は根っからのゲイでもバイでも無いし、それは樋口組長も同じだ。
何から何まで樋口組長に似てしまうのだと、凌は良く口にしているけれど……僕には、凌があの人に似ているとは思えない。
「樋口組長と凌は、全然似ていないよ。だって、僕にはいつだって優しいじゃないか、」
「組長も、惚れた相手の前では別人のように優しくなる。……そう云う所も、そっくりだ」
遠まわしに、僕に惚れているから優しくなれるんだと云っている。
それがとても可笑しくて、僕はようやく手を伸ばし、相手の首へとしがみついた。
「凌、僕のことを好きなら言葉にして。」
「……一方的な愛の言葉なんて、口にした所で虚しいだけだろう、」
相手は余裕たっぷりと云った様子で、その上鼻で笑ったものだから、僕は少し気を悪くした。
僕の前では、余裕なんて皆無にしてやりたいと強く思い、相手の耳朶を甘く咬んでやる。
耳が弱い相手は一瞬だけ肩を跳ねさせたけれど、僕を突き放す様子も怒り出す気配も無い。
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