告白…12
「言って、凌。その虚しさが、僕を無理に犯した罰だよ、」
自分が咬み付いた箇所を今度はゆっくりと舐め上げ、息を軽く吹き掛けるようにして囁く。
すると、相手は僕の身体を力強く抱き締めて来た。
軽い舌打ちを何度も零すあたり、中々その言葉を云えずにいるのだろう。
甘い声で男を呼んでやると、ようやく、彼は低く掠れたような声を出した。
「…好き、だ」
それはとても小さな言葉で、その上、甘い囁きとは程遠い。
だけど僕の身体は単純にも熱を上げ、鼓動は速まり、欲情をひどくそそられた。
「もっと……言って、」
ねだるように囁くと、苛立ったような舌打ちが数回続けて耳に届く。
彼の無骨な手が、急くようにして僕のシャツを脱がし始めた。
釦はもう既に半分以上外されていたから、肌が露出するのに時間は掛からない。
「好きだ…悠樹、」
今まで言わず、抑えて来た想いを言葉にしている内に、興奮し始めたのか
凌は僕の首筋に顔を埋めて唇を寄せ、何度も口付けを繰り返して来る。
それから乳頭に口付けられ、やんわりと咬まれて、僕は堪らずに声を上げた。
舌先で突付かれ、音を立てて吸われて、甘い疼きが身体中を駆け抜けてゆく。
「ふっ…あ、はぁ…、もっと、凌…もっとだよ、」
息を熱く弾ませ、声を上げながらねだると、反対側の突起を指で摘まれ
少し強めに抓られて、僕はあまりの好さに小さな悲鳴を上げた。
「……好きだ、悠樹……愛している」
余裕も無く、切羽詰ったように想いを告げられて、胸の奥が熱くなる。
凌の口から聞いてみたかった言葉が、今まさに紡がれていることが嬉しくてたまらず、僕は彼の頭にしがみついた。
「ねぇ、凌……今でも、僕を飼っているんだと思ってる?」
相手の髪を緩やかに梳きながら、不意に尋ねてみる。
凌は愛撫の手を一度止めて、視線を注いで来た。
僕の事を愛している彼が、そう思っていない事は分かっている。
だけど、彼の想いを聞いた今、僕はどうしても、あの言葉を訂正させたい。
彼の口であの言葉を訂正するまでは、告白なんて絶対にしてやらないと云う意地が有るのだから。
「あの言葉、とても傷ついたんだよ。この僕をペット扱いなんて、最悪にもほどが有る」
「悪かった。あれは……お前を抱く為の、口実だ」
責めるように言ってやると、凌はあっさりと謝罪した。
情け無い言葉を口にする相手が可笑しくて、そして何より嬉しかったけれど
僕はつい、いつものように生意気な口を利いてしまう。
「凌、すごく格好悪い。ヤクザの癖に…情けなくて、笑えて来るよ」
「……俺を此処まで情けない男にしたのは、お前だ。」
低い声音が心地好く耳の奥に響いて、脈が速まり、身体が熱くなる。
……………僕は、彼に関して色々な事を知った。
僕を初めて抱いてからは、どれだけ綺麗な女性に誘われても応じなくなったこと。
物を大事にせず、一週間も持たずに壊しては直ぐに買い換える癖に、僕があげた物だけは大切にしていること。
武闘派の癖に、僕に対しては殴りつけたりしないし、様々な表情を僕には見せてくれること、とか。
本当に、色々な事を知った。
そして、また一つ凌に関してのことを知る事が出来て、幸せすら感じる。
僕は今、兄じゃなく、別のひとに夢中になっている。
だけど当の本人は、その事にまったく気付いていない。
嫌いな相手の為にわざわざバイトをしてまで、僕は、最新型のモバイルノートを買うような質ではないのに。
普段は鋭い癖に肝心な所で、とてつもなく鈍い男が堪らなく滑稽で…………そして、愛しくてたまらない。
―――――――今は兄貴より、凌が好きなんだ。
そう告白したら、僕を好きで好きで堪らない彼が、どんな顔をするのか。
考えただけで笑みが零れそうになって、堪え切れず、僕はほんの少し笑い声を立てる。
すると、凌はぴくりと眉を顰め、双眸を細めて軽く舌なめずりした。
「随分、余裕だな…」
「っぅ…ん、はぁあ…ッ」
一度舌打ちを零した後、彼は身体をずらすと、僕自身を躊躇い無く口に咥え込んだ。
甘すぎる快楽に、指の先まで痺れて、笑っていられる余裕なんて無くなってしまう。
いつ、告白してやろうかと考えて、僕は身体を熱く震わせながらも
男がくれる心地好い熱に、溺れていった――――。
僕は、兄を愛していた。けれど、それは恋心じゃなかったのかも知れない。
兄に対して抱いていた感情が本当に恋心だったのか、それすら分からなくなるほど……………
今は、凌に対しての感情の方が
僕のなかで鮮やかに、色づいている。
終。
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