理想の犬?…05
「ふっ…んぅっ…ぁ、あッ」
奥深くまで突き上げたかと思うと、内部の熱い塊は脈打ち、熱い迸りを彼の中に注ぎ込む。
内部がぐしょ濡れにされる感覚の所為で、祖父に犯され続けた日々の事が、千尋の頭の中に浮かんだ。
動きを止めて呻きながら射精を続けている相手には構わず、千尋は記憶を掻き消すように、例の男へと視線を向ける。
目が合うのに、男は逃げる気配も見せず、その表情には嫌悪すら浮かんでいない。
「坊主、今日も好かった…また頼むよ、」
薄汚いズボンを履きながら相手は満足そうに云い、薄汚れた指で千尋の柔らかな髪を撫でた。
視線を男から逸らし、相手を捕らえるかのように、じっと見つめる。
「僕も、気持ち好かったよ。おじさんとすると、すっごく好いんだ」
にっこりと笑うその姿に、相手の視線が釘付けになるのが理解出来る。
十分満足した相手とは違い、千尋はまだ絶頂に追い上げられていないにも関わらず、お世辞と云える言葉を吐く。
まだ勃ち上がったままの性器は、後程一人で処理をする。
それは千尋にとって、いつもの事だ。
暫くの間、相手は千尋の魅力的な笑顔に見惚れていたが、やがて早く立ち去るようにと彼に促されてしまう。
名残惜しそうに千尋の頭を撫で、浮浪者はゆっくりと離れてゆく。
誰にも見られていないかと、確認するように周囲へ視線を走らせた上で、相手はその場を立ち去った。
浮浪者の姿が見えなくなると、千尋は直ぐに、例の男が立っていた場所に視線を戻す。
しかし、もうそこに、あの男の姿は無かった。
残念そうな溜め息を軽く吐き、脱いだ制服を拾い上げた瞬間、茂みを掻き分けるような音が響く。
虚無感と気だるさを感じ始めた千尋は、興味無さそうにそちらへと視線を向ける。
目に映ったのは、先の浮浪者とは別の、汚らしい格好をした年配の男の姿だ。
いつも自分の事を、息子のように可愛がってくれている人だと、
ぼんやりとその男の事を思い出した千尋に、相手はいきなり掴みかかって来る。
「なに…?」
しかし千尋は全く動じる素振りは見せず、短い言葉を紡ぐだけだ。
逆に、年配の男の瞳は怒りに満ち、顔には嫌悪の色が浮かんでいる。
細く華奢な身体をいとも簡単に組み伏せ、男はいきなり片手を振り上げた。
「孝一、おまえ…なんて汚い奴なんだっ」
男がそう叫んだかと思うと、バシッと響きの良い音が鳴り、頬に痺れるような痛みが走る。
どうやら、無精髭の浮浪者との行為を、目撃していたらしい。
自分の上に圧し掛かっている相手を見上げ、千尋は心中で溜め息を漏らした。
「俺の、俺の息子がこんな…こんな汚い奴だなんて…おまえはあの女と一緒だっ」
怒声が響き、振り上げられた手に、再度頬を叩かれる。
平手打ちと云えど、成人男性の力は強すぎる為、かなりの衝撃を受ける。
口の中が切れたのを感じるものの、千尋は抵抗する素振りは全く見せず、ただ黙って殴られるままになっていた。
以前にも何度か、この男に見つかっては殴られた。
しかし後日には、その時の事をこの男は忘れてしまうのだ。
抵抗せず、じっと耐えていれば……やがて男は疲れて殴るのを止めてくれる。
そして後日になれば、またいつものように優しい顔で、自分の事を別の名で呼び、可愛がってくれる。
祖父に犯されて以来、千尋の中では抵抗や期待と云う文字が消えた。
誰かが助けてくれる、と云う期待など、抱いた所で虚しいだけだと……
救いの手も差し伸べられず、助けなんて決して来ないと、祖父に犯されながら千尋は思い知ったのだ。
「売女めっ、この……うッ」
目を瞑りながら痛みに耐えていたが、急に衝撃が止んだ。
それ所か、上に圧し掛かっていた重さまでも一瞬で消え、静まった世界には、風に揺れる木々のざわめきだけが耳に響く。
静けさを取り戻した空間に、微かに男の呻き声が聞こえたのを耳にして、千尋はゆっくりと瞼を開けた。
先程まで自分を容赦なく殴っていた年配の男は、微かに呻きながら、少し遠くの方に転がっている。
暫し呆然としている千尋の顎が、いきなり横から掴み上げられた。
視界に、あの、精悍で男らしい怜悧な顔が入った。
「骨は折れてねぇな、」
「おじさん…、」
肩まで無造作に伸ばされた黒い髪に向かって、無意識に手が伸びる。
震える指で相手の髪を撫でるけれど、男は文句一つ零さない。
縋りつくような千尋の表情が、あまりにも弱々しく思え、男は目が離せ無かった。
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