理想の犬?…06

「おじさん…僕の、犬になって…」
 まるで泣き出しそうな震えた声が、薄く整った唇から漏れる。
 その発言に眉を寄せるものの、男の切れ長な瞳は、青年を捉えたままだ。
「笑えない冗談だな。…服を着ろ、」
 ようやく青年から目を逸らし、拾い上げた制服を相手へと押し付けるように手渡す。
 けれど相手は制服を手にしたままで着ようともせず、形の良い唇からは血がうっすらと零れている。
 顔だけでは無く、身体までも拳で殴られていた為、白い肌は痛々しそうに赤らんでいる。
 もう少し時間が経てば、くっきりとした痣に変わるだろう。
「冗談じゃないよ、おじさんが…欲しいんだ、」
「俺は物じゃねぇんだよ、他を当たれ」
 素っ気無い言葉を返し、立ち上がろうとした男の服を、咄嗟に掴んだ。
 迷惑そうに眉を寄せながら睨むように自分を見ている男にも怯まず、千尋は我を忘れて必死で縋りついた。
「おじさんじゃないと…駄目なんだよ、欲しいものなら何でもあげるから……だから、」
「へぇ…、じゃあヤらせろっつったら、その通りにするのか?」
 冗談混じりの言葉を放たれても、千尋は動じない。
 一瞬だけ驚いたように目を丸くするが、直ぐに頷く。

「……その後は殺して、埋めちまうかも知れねぇぞ?」
 不敵な笑みを浮かべながら放たれた犯罪的な言葉にも、千尋は全く動じる気配は無い。
 ただ、男のその不敵な笑みがあまりにも魅力的で、見惚れてしまっていた。

「聴いてるのか?犯して、殺して、埋めるって云ってんだよ、」
 男に見惚れている所為で、中々返答を口にしない青年の顎を掴み上げ、ドスの利いた声を放つ。
 睨むような眼差しに、千尋は自分の身体が熱を上げるのを感じていた。
「それで、おじさんが僕のものになるなら…殺してもいい、」
「……馬鹿か?お前が死んだら、意味がねぇだろうが」
「僕が死んでも、おじさんは約束をした時点で僕のものになるから、意味は有るよ」
 屁理屈とも云える言葉を吐かれ、男は呆れたような溜め息を漏らした。
「…おまえ、イカレてんのか?……あんな汚ぇ奴にケツ掘られて、あんあん鳴きやがって、」
 吐き捨てるような言葉を耳にしても、千尋は全く傷付く様子は無い。
 云われ慣れているのか、血が出ている唇を平然と舐め、口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「気持ち好いんだもの。あんな声が出ちゃうのは、仕方ないんだよ」
 さして気にした様子も無く、すました顔でそんな事を放つ青年を見下ろし、男は手を伸ばした。
 年配の男に殴られても、萎える事の無かった性器を、男の手がやんわりと包み込む。
 それまで澄ましていた青年の顔が、少しだけ躊躇いの表情を浮かべた。
 そのまま握り潰されてしまうのかと考え、無意識の内に恐怖の色を浮かべる青年を見つめながら、男はゆっくりと手を動かす。
「あんな一方的なセックスが、気持ち好いだと?どう云う神経してんだ、おまえは…」
「なっ、ゃ…ぁっ」
 性器を刺激され、痺れるような快感を得て、青年の身体が震える。

 今まで相手をした人は皆、自身の快感を求めるだけで、千尋の性器に触れた者は祖父一人しか居なかった。
 けれど祖父がそこに触れた時は、仕置きのように少し強く握っただけだ。
 男が今しているような、他人のこんなにも優しい手の動きは、千尋は知らない。
  「やっ、やめ…ッ」
 自分で刺激するよりも遥かに快感が強く、無意識の内に拒否の言葉が漏れる。
 嫌がるように首を振るが、男の手は巧みに性器を扱き上げ、敏感な先端までも撫で上げて来る。
「何だおまえ……他人に弄ってもらった事、無いのか?」
 躊躇いの表情を浮かべながら、抵抗するように男の身体を押し戻そうとするその姿に、疑問を抱く。
 だが男の質問に答えられる余裕は、今の千尋には無かった。
 扱かれている性器からは、クチュクチュと卑猥な水音が響き、青年の羞恥が高まる。

「ゃ…ぁっあ…ッだ、だめ…やめて…っ」
 綺麗に整った可愛らしい顔を紅く染め、先程までの澄ました顔は今や何処にも無く。
 涙目で弱々しく首を振る、快感で余裕が全く無いその姿に、男の加虐心が煽られた。
「やめて良いのか?此処でやめると、つらいと思うけどな…」
 喉の奥を響かせるような、男の低い笑い声が、青年の耳を刺激する。
 こんな風に耳元で囁かれたのも、初めての事だ。
 背筋がゾクゾクするような快感に、もう何も考えられない。


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