濡れる肌…03

 俺はずるくて、それでいて臆病だ。
 嫌われたくないから、こいつが少しでも恐がったり嫌がったりすれば、直ぐに手を引くような、臆病者だ。

 歳の近い、高校生になったばかりの、しかも同性に欲情する俺はきっと、何よりも倒錯している。
 その上、実の弟を犯してしまいたいと思う俺は、あまりにも醜悪だ。

「……徐々に慣らしてく方が、いいと思うけどな。それにおまえ、今日風邪気味だし。無理はさせちゃ、やばいよな」
 だから今日はしないよ、と続かせると、相手はそれはとてもゆっくりと、視線を落とした。
 訝って首を少し傾げた俺の目に、頬を染めたまま嬉しそうに口元を緩ませる弟の顔が映る。
「あの、さ…兄ちゃんっておれには優しいでしょ。今みたいに、おれのことちゃんと考えたりしてくれるし……だから兄ちゃんはやっぱり、根っから優しいんだと思う」

 違う。優しくしておかないと、おまえが離れてしまいそうで恐いからだ。
 優しさだけで繋ぎとめておける関係なんて、儚いだけなのにな。

「……俺は、おまえ以外の奴に優しくするつもりなんか、無い」
 だけど本当の事を言えば失望されそうで、弱い俺の一面なんて絶対に見せたくはないと思って、零れたのはそんな言葉で。
 自分の言葉に苛立って、俺は軽く舌打ちを零して、弟の肩を掴んだ。

「そろそろ飯、作らないとな」
 軽く押し戻して逃げるような言葉を吐いて、だけど躊躇いがちに、うん、と答えた弟の様子に少し違和感を覚えた。
 弟はどうしてか少し前屈みになっていて、その意味を同じ男だから察っする事は出来る。
 だが、何でそう云う状態になるのかが上手く理解出来ずに、俺はまじまじと弟を見遣った。
 俺の視線に、気まずそうに相手は目線を落として、けれどやがて恥ずかしそうに、唇を開いた。
「ご、ごめんなさい……さっきのキスで、」
「勃ったのか、」
「う…うん、だから治まるまで、暫く休んでるから…先、行ってて」
 答えている間に弟の顔は更に赤くなって、それを見ていたら胸がひどく熱くなった。

 ――――そうだな、大体おまえ、風邪気味だしな。ゆっくり休んでろよ。
 返すべき言葉が頭に浮かぶのに、中々言葉に出来ず、俺はもう一度舌打ちを零して布団の中に手を滑り込ませた。
「に、兄ちゃん…っ」
「嫌なら辞めてやる。だけど俺は、おまえに触れたい」
 相手の足らしき部分に手を這わせて、辿るように徐々に上に向かわせながら、こんな事ぐらいで俺を嫌いにならないでくれと、俺は情けない想いを抱いていた。
「い…いいよ、……さ、触って…、」
 今にも消え入りそうなほどの弱々しい声が耳に入って来て、まるで誘うように、触ってと少し語尾を上げたその科白に俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。
 同じ男なのに、どうしてこいつはこんなに可愛いんだろう。
 俺の弟なのに、どうしてこんなにも似ていないんだろう。

 けれどその疑問の答えを考える間も無く、俺は余裕無く手を進ませて、やがてそれらしき膨らみに触れた。
 布越しなのにそれの熱が感じられるのは、単に俺の手が興奮で熱くなっているからなのか。
 何だかとても堪らなくなって、俺は片手で弟の身体を抱き寄せて、唇を重ねた。
 触れ合う柔らかい感覚がとても心地好く、啄ばむような口付けを繰り返しながら、片手を動かしてズボンのジッパーを下げてやり、中へと手を滑り込ませた。
「……んっ、」
 下着の上から触れてやると、甘えるような声が間近で聴こえる。
 欲を擽る声に拍車をかけられ、下着の中へ手を差し入れて、感触を堪能するようにゆっくりと揉み込み、相手の唇を何度も舐め上げた。
 包み込むように性器を握り込んで、緩やかに上下に擦り上げると、相手はまるで縋って来るように俺の舌を舐めて来る。
 溢れ出た蜜を塗り込むようにして指で亀頭を刺激すると、快楽に弱いのか涙目になって、身体を切なそうに震わせた。


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