Forget me not…02

「あのね…テレビ点けて欲しいなぁ」
 ニッコリと笑いながら言ってみるけど、やっぱり断られてしまった。
 どうしてああ云う話を観ては駄目なんだろう。
 不意に、彼と出会った日の事を思い出す。
 実は、僕は赤ちゃんの頃から彰人の傍に居た訳じゃなくて…。
 幼い頃にお母さんが死んで、その葬式の席で初めて彰人に出会った。
 お母さんが死んだと云うのに、涙一つ零さない僕に、彰人はとても興味が湧いたと言っていた。
 親が死んでも泣かない僕の姿を見て、やっぱり自分の子供なんだと実感したとか…。
 でも僕は結局、彰人と二人きりになってから大泣きしてしまったのだ。
 あんな幼い頃から、僕はもう、人前で泣く事はしなかったんだなぁ…
 なんて、しみじみ考えていると、彰人に唇を指でなぞられる。

「では、今度は私の我儘を聞いて貰おうか…」
 口角を上げて、低い声で甘く囁かれる。
 って言うか、何で僕が彰人の我儘を聞く羽目になるのか、それが知りたい。
 どう言う話の流れで、そんな風になるのかな。
 思わずじっと彰人を見つめていると、軽々と身体を抱き上げられる。
「わっ、ちょっと…彰人?」
 焦りながら声を掛けると、抱えられたままで、ある方向へと向かわれる。
 そっちってもしかして…。
「一緒に入ってくれるだろう?」
「お、お風呂…」
 嫌がるように首を横に振って見せるけど、そんな僕には構わずに彰人は浴室へと連れ込んでゆく。
 信じられない……昨日の夜に、何回もしたのに。
 それなのに、今日もだなんて…何てタフ…。
 若い僕より、歳取ってる彰人の方が元気だなんて、何か納得出来無い。
 苦悩していると浴室の床に下ろされ、シャツのボタンを神業とも言えるスピードで外されてゆく。

「ちょ、ちょっと待って!」
 慌てて止めるけれど、そんな抵抗なんてこの男の前じゃ無意味に等しい。
 綺麗で男らしさを感じさせる彼の指が、僕の乳首を摘んで来る。
 彰人は本当に、僕の扱い方を分かっている。
 弱いそこを指で摘まれたり、軽く押し潰されると、身体にビリッと電気が走るのだ。
 そうなればもう、赤子の手を捻る…と言うもので。
 彼の指の腹がそこを弄る度に、僕の身体は面白い具合にビクン…ッと震えてしまう。
「彰人…っ、もっと…」
 彼が良く言う、物欲しそうな顔を、今僕は浮かべているんだろう。
 彰人の口元に満足そうな笑みが浮かんで、それを見ただけで僕の胸は高鳴る。
 その口元がゆっくりと僕の胸元へ向かい、何の躊躇いも無く、胸の突起を口に咥えた。
「ん…ッ、はぁ…ん」
 思わず満足気な吐息を漏らし身体を震わせると、彰人の、喉の奥を鳴らすような笑い声が響く。
 ざらりとした感触の舌が、乳首を押し潰しては巧みに転がし、快感をくれる。
 舌の先端で擽られると、ホントにもう駄目…。
 腰まで響くような快感に呑まれて、身体の奥から疼きが沸き起こってしまう。
「ゃ…彰人、ねぇ…」
 せっつくように彰人のシャツを握って、乱れた吐息の間に言葉を漏らす。
 焦らさないで、早くして欲しい…。
 羞恥を感じながらも欲望が抑えられず、潤んだ瞳で彰人を見つめる。
「せっかちだな…」
 目を眇めながら囁かれ、その仕種さえ魅力的で…つい僕はうっとりと見取れてしまう。
 確かに、彰人の言う通り、僕はせっかちだ。
 情けない事に我慢が出来無いし、現に今彰人の手でズボンと下着を脱がされてるけど…
 彰人はまだズボンは当然の事、シャツだって纏ったままなのに。
 余裕有り有りのお父様のシャツを掴んでいた手を離すと、僕は彼の首へと抱きつく。
「ヤラシイな…もうこんなに濡れている…」
 耳元で低く囁きながら、僕の小ぶりな性器を、彼の手がやんわりと握り込んで来た。
 その感触に、先の快感を期待してしまっている僕は、身体を震わせてしまう。
 本当にヤラしくて、そして…

「淫乱な子だ…」
 耳元でそう囁かれると同時に息を吹き掛けられ、ゾクゾクとした快感の寒気が背筋を這ってゆく。
 そんな事を言われて、否定するように首を振るけど…
「ゃぁ…あぁ…っ」
 唇からは全く説得力の無い甘い喘ぎが漏れる訳で…。

 快感に直ぐに負けてしまう、単純な身体。
 こんな身体は、いつか彰人に飽きられてしまうんじゃないかって…
 そんな不安が、いつだって心の奥底に、潜んでたりする。
 不安を感じながらも、僕は彰人の腕の中で、快感を貪り続けた。

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