Forget me not…03
浴室から出れば出たで、今度は寝室に運ばれて…
夕方近くまでヤりまくり…って、ちょっとヤバイかも。
お陰様でベッドの上でぐったりとして、指先すら動かすのも面倒なぐらいに疲労していた。
最後なんか、中出しした液体を掻き出すとか言って、あの器用な指で散々虐められたし。
そんな僕とは正反対に、彰人はさっさと出かける支度なんかしてて…
何でこんなにこの人、元気なワケ?とか思っちゃう。
「それじゃあ、行って来る。」
「ん、行ってらっしゃい…」
力無い口調で答えると、頬へ彰人の唇が近付き、軽いキスをされる。
うぅ…そんな優しい事されたら、離れるのが余計淋しくなっちゃうのに…。
思わず淋しげな瞳で彰人を見つめると、濡れた髪を優しく梳かれた。
「私の居ない間に、他の男を連れ込むなよ?」
「そんな事…する訳、無いよ」
だって僕は、彰人が一番なんだもん。
いくら淋しくたって、大好きな人を裏切るような真似はしないよ。
「いい子だ。」
頭を優しく撫でられて、額にキスをして貰って……そんな事されたら、泣いてしまいそう。
別に永遠の別れってワケじゃないのに、彰人と離れる時は胸が切り裂かれそうな程の痛みが得られる。
それと、迷子になった子供みたいに、不安と寂しさで一杯になる。
「…会社まで、付いてっちゃダメ?」
ぽつりと言葉を漏らすと、彰人は目を眇める。
ダメ…みたい。
しょんぼりしながら毛布を頭まで被って、ぶっきらぼうに
もう一度、「行ってらっしゃい」と声を掛けた。
普段こんな態度を取れば、僕の機嫌が治るまで
一日中傍に居てくれるけど…流石にこの時期はそうは行かないらしい。
僕を放って、彰人はさっさと部屋を出て行ってしまった。
息を潜めて耳を澄ますと、暫くしてからあまり僕の聞きたくない音――――ドアの閉まる音が聞こえた。
「彰人の馬鹿…」
誰も居ない部屋に響く自分の声が、更に淋しさを強まらせる。
でも…こんな事で一々傷付いてる僕が一番、馬鹿なんだ。
「葵、あーおーい…」
「ん…?」
折角気持ちの良い眠りに浸っていたのに、身体を揺すられて名前を呼ばれる。
この声、何か聞いた事有るなぁ…なんてぼんやりと考えながら、そっと目を開けた。
はっきりしない視界に、友人の雪之丞の顔が見えた。
「雪…?」
「お早う葵、遊びに行こう?」
ニッコリと可愛らしい笑みを向けられ、思わず肯定してしまう。
ゆっくりと上体を起こして、近くの目覚ましを手にして見ると…朝の9時だ。
僕、彰人が出て行ってから直ぐに寝ちゃったのか…。
そりゃ、あれだけ疲れたらぐっすり眠れるってものだ。
「あ…葵…」
驚く雪之丞を不思議に思い、首を軽く傾げるものの、自分の姿を見てやっと理解出来る。
僕は昨日の格好のまま寝てしまったワケで、素っ裸なワケで…。
そして一番マズイ事に、その肌には彰人が付けた鬱血の痕がいくつも有る。
慌てて毛布を掴んで身体を隠すけど、しっかり見られてしまったみたい。
雪之丞は一応、僕と彰人は恋人同士だって知ってるけど、
まさかエッチしている関係だとは知らなかったみたいで…。
「聞いて無いよっ、彰人さんとヤッてたのかよ!」
怒っても顔は可愛いんだけど、その身に纏ってる迫力が恐ろしい…。
彰人とはまた違った怖さが、目の前の可愛い青年には有るみたいだ。
「そ、そりゃあ、そんな事言えないよ…」
いくら友人でも、お父さんとエッチしてます、なんて言えない。
お父さんと恋人同士です、って事さえも言うのに躊躇ったんだもの…言えるワケが無い。
僕の言葉に雪之丞は暫く黙ったままで、何かを考え込んでいるようだった。
そして不意に室内を見回し、口を開く。
「彰人さんは?」
「え、あ…仕事…」
気まずそうに返答すると、彼は高い声で不快そうに「はぁ?」と、声を上げた。
何でこんなに雪之丞がピリピリしているのか分からない僕は、彼が何かを言うのを待つしか出来無い。
「ヤリ終わったら、さっさと仕事行ったワケだ?
そんな格好で居たら、葵が風邪引くかも知れないって事は、あの人…考えなかったワケだ?」
刺々しい口調で言って来る雪之丞は、気付いていないみたいだ。
彰人はちゃんと僕の事を考えてくれているって事に。
僕が昨日2回目の「行ってらっしゃい」を行った後、彰人は部屋を出て行く際、
風邪を引かないようにと、ちゃんとエアコンを付けて行ってくれたって事。
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