Forget me not…04
ちゃんと戸締まりだって確認して、僕の安全を考えてくれてるんだって事。
そう考えると自然と笑みが零れてしまって、一人で喜んでいる僕を雪之丞は怪訝そうに見つめていた。
あれ?そう言えば雪は、どっから入って来たんだろう?
彰人が戸締まりを怠る筈が無いし。
「雪、どうやって入ったの?」
考えてもさっぱり分からなくて、本人に向かって尋ねてみる。
すると雪之丞は、小さい子供みたいに悪戯っぽい笑みを浮かべて、鍵をポケットの中から出した。
「合鍵…作っちゃった」
語尾にハートマークが付きそうなぐらい、可愛い声で言われたら…怒る気も失せてしまう。
でも、いつの間に………あ、そう言えば彰人に、男を連れ込むなって言われたけど――――。
僕はそう考えて、女の子顔負けなぐらいに可愛い雪之丞を見つめる。
果たして、男と認めて良いのだろうか。
身長だって、僕よりも小さいし…とか、ちょっと失礼な事を考えちゃったりして。
それに、僕が連れ込んだんじゃなくて、雪が勝手に入って来たんだから…って、
彰人が居ないのに言い訳を考えちゃう自分が嫌だ。
取り敢えず服を着ないと…と考え、一応雪之丞にはこちらを見ないようにと告げて、ベッドから這い出た。
自分の色白な肌とか、筋肉があまり付いてなくて細い体も、あまり人に見られたくない。
雪之丞はそんな事を馬鹿にしたりするような人じゃないけど、やっぱり嫌だから。
僕ってホント、コンプレックスの塊みたいだ。
溜め息を漏らしながらシーツを纏い、壁の一面になっているクローゼット開ける。
服がびっしりと並んでいる事に後ろで驚きの声を上げた雪之丞は、
さっき見ないでねと声を掛けたのにも関わらず、こっちを見ていたみたいだ。
適当に自分に似合う服を選んで、裸体が見えないように工夫しながら、さっさと服を着た。
「雪、南は?」
いつも一緒に居る筈の、背の高い青年の姿が見えない事に遅れながら気付く。
もう一人の僕の友人で、遊び人みたいな格好をしている癖に、性格は無愛想な人だ。
初めて出会った時は本当に全然喋ってくれなくて、自分は嫌われているのかと思った程だった。
「智朗は、ま…じゃなくて、アイツ用事が有るみたいだよ」
「撒いて来たんだ?」
軽く溜め息を吐くと、雪之丞は視線を泳がせた。
南、可哀想に。
そう思って寝室から出ると、家の電話の子機を掴んで、掛け始める。
「葵っ、ど、何処に掛けてんのっ」
「だから、南の携帯…」
「やだっ!オレは葵と二人で遊びたいんだっ」
まるで駄々を捏ねるように言うと、雪之丞は直ぐに子機を奪い取って電話を切る。
何だか本当に子供みたいで、思わず僕は笑い出してしまった。
「分かったよ、二人で遊ぼう」
僕のその言葉に、雪之丞の瞳が嬉しそうに輝いたのが可笑しくて、僕はまた笑ってしまう。
雪之丞は、本当に本当に、かわいいんだ。
それこそ、僕とは比べ物にならないぐらいにかわいくて、
彼は僕と居るのが一番良いって言ってくれるけど…正直、僕の何処が良いのか分からない。
だって僕は、良い所なんて何も無いもの。
時々、僕が息子だから、彰人は僕の想いに応えてくれたんじゃないかな…とか思ったりする。
血の繋がりが有るから余計に大切に感じたりとか…。
もし僕が彰人の子供じゃなかったら、きっと彰人は、僕の想いに応えてなんかくれなかったのかも知れない。
だって僕は、彼との血の繋がり以外
何も、素敵な物は持っていないから。
流石に吐く息まで白い程、外は冷え込んでいて、景色はすっかり冬を感じさせる。
そう云えば冬休みに入ってから、あまり外に出て居なかったなぁ…
なんて事を考えながら、隣を歩いている雪之丞を、ふと見つめてみた。
まるで女の子を隣に連れて歩いているみたいだ、とか、雪之丞に対して失礼な事を考えてしまう。
僕は別に女の子が嫌いな訳じゃないし、可愛い子を見ればかわいいと思うし、
綺麗な人を見れば軽く見惚れる事だって有る。
男にしか惚れないって訳でも無いのに、彰人を好きになっちゃったのは…
彼が僕にとって、一番の存在だったからだと思う。
「葵、今年の誕生日も彰人さんと過ごすの?」
唐突な雪之丞の問いを耳にして、彰人は仕事で毎年一緒に居れない事を、彼には言っていなかったのだと思い出す。
雪之丞とは中学校からの付き合いだから、結構彼の性格は分かっているつもりだ。
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