Forget me not…20

 その瞬間、彰人が纏っているワイシャツの胸ポケットから、携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
 驚きでビクリと身体を跳ねさせ、目を開けて彰人を見る。
「もう時間か…」
 舌打ちを一度零したけれど、急ぐ様子も無いまま、ぽつりと漏らすものだから
 僕は今のが電話の呼び出し音じゃなくて、アラーム音なのかと勘違いしてしまう。
 腰の動きを一度止めて、鳴り響いている携帯を片手で取り出し、彰人は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 取り出した携帯を耳に当て、「私だ」なんて言うものだから、それが電話だと気付く。
 僕は咄嗟に自分の口元を両手で覆い、乱れる息が聞こえないようにと努めた。
 そうやって努力している僕を、まるで愉しむかのように、彰人は口元に鬼畜な笑みを浮かべて……。
「んっん…ッ!?」
 先程とは比べ物にならないぐらいに、巧みに腰をグラインドさせて来た。
 信じられない、と言った様子で彼を見つめる僕なんかお構いなしに、最感部分を的確に攻めて来る。
「んぁ…ッんン!は…っ、ぁ…んぅっ」
 必死で声を抑えて、口を塞ぐ両手にも力が入る。
 僕、絶対遊ばれてるよ……。
 彰人を睨もうとするけれど、目が潤んでるから、誘ってるようにしか見えない訳で。
「あぁ、そうか。ん…っ、客室に案内しておいてくれ。…いや、何でも無い」
 限界に近付いてる所為で、僕の締め付けも増して、彰人が一瞬小さく呻いた。
 僕とは全然違って、男らしく低い呻きで…ドキドキしてしまう。
「それと、彰宏にもう幾つか礼儀作法を覚えさせてやってくれ。」
 僕と繋がっている最中に、彰人の口から聞きたくない人の名前が出た事に、胸が痛くなる。
 不安を感じている僕なんかお構いなしに、抽挿は激しく繰り返される。
 それに感じちゃってる、僕も僕だけど。
「んぅッんく…っ!ぁっぁ、あ…ッ!」
 彰人の雄々しい肉棒が入口ギリギリまで抜かれたと思うと、凄い勢いで最奥を貫いて来る。
 その衝撃に我慢出来ず、必死で抑えていた声は漏れ始めてしまう。
「あぁ、頼む。」
 そう言って運良く彰人が電話を切ってくれて、無造作に携帯を机の上へと放り投げた。
 壊れたらどうするんだろう…とか、ぼんやり考えていると、彰人の整った顔が近付けられた。
「残念だが、そろそろ終わらせるぞ…」
「ひぁっ、ゃ…あっぁッあ…ッ!」
 彰人は低い声で囁くと同時に、激しく内壁を擦り上げて来た。
 あまりの快感で、身体はビクビクと跳ねてしまう。
 室内に響く自分の嬌声と、肉のぶつかり合う音と、結合部から響く淫らな水音………そして、彰人と僕の荒い息遣い。
 それら全てが僕の興奮を掻き立て、彰人の興奮もまた強めている。
「んぁ…っ、あっあぁ…彰人、やだぁ…ッ」
 無意識に泣きついて、彼の首に腕を回してしがみついて、僕は嫌々と首を振った。
「ど…して、僕の誕生日なのに…居て欲しいのに、一緒に…」
 上手く言えていない言葉を紡いで、泣きながらも快感の波に呑まれ始める。
 ガクガクと震えている僕の身体を彰人は何も言わずにきつく抱き締めて、深くまで貫いて…
 限界へと一気に駆け上がった瞬間、頭の中は真っ白になり、目の前が真っ白になった。
「ゃ…あぁっ、あぁああ―…ッ」
「…くッ、」
 泣き叫ぶような煩い嬌声を高らかに響かせ、身体を痙攣させながら吐精する。
 その瞬間、中で彰人のモノも一際大きくなってドクドクと脈打ち、最奥へと熱い液体を掛けられた。
 眉を寄せて、小刻みに痙攣しながら長い射精をしている、
 男らしくてカッコイイ彰人は……僕だけが、見れると思っていたのに。
「彰人…」
 切ない気持ちになって彼を呼ぶけれど、彰人は惜しむ事も無く僕の中からズルッ…と出て行ってしまう。
「戻って来るまで、大人しく待っていなさい。」
 まるで何事も無かったかのように僕から離れて、逞しい雄をしまい、
 クローゼットへと無駄の無い動作で向かう彰人をぼんやりと目で追った。
 タオルを数枚取り出して汗を拭き、汚れた机も雑に拭いてから身嗜みを整えて…
 一度も僕を振り返る事なく、彰人は出て行ってしまった。

 ………本当に、僕は捨てられたんだ。
 彰人の態度が、それを思い知らせてくれるには、十分だった。
 僕の誕生日は、彰宏の所になんか行かないで。
 どうか…傍に居て。
 一人にしないで。
 もう…一人は嫌だよ。
 そう心の中で訴えてから、蕾からだらしなく零れ出て来る彰人の液体の感触に、涙が零れた。

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