Forget me not…28
「だ、だから…もう彰人とは…エッチしない…」
「そうか…、」
身体が震えている僕を愉しむかのように、性器に絡まった器用な彼の指が、やんわりと追い上げて来る。
そのまま揉むように扱かれて、その手は表皮を擦るように上下して来るものだから…
幼い頃から彰人に色々として貰っていた身体は、
あまりに快感に素直過ぎて、結局抵抗なんて出来無くなってしまう。
「んっ、ふ…あっぁ…!」
撫で上げられて扱かれ、もし声が外に聞こえしまったら…と思うと、身体が震えた。
嫌がるように首を振るけれど、彰人がそれで許してくれるような人じゃないって事を、僕は重々知っている。
彰人の指に夢中になっていると、いつの間にかベルトを外されて下着ごとズボンを下ろされた。
そして彼は顔を下へと向かわせて……。
「ゃっ!ぁあ…ッ」
かなりぐっしょりと濡れて主張している僕の性器を、口に含んで来た。
熱い口腔の感触に身体が震えて、全身にゾクゾクと快感の寒気が走る。
あまりの気持ち良さに目が眩んで、涙が滲んだ。
僕の弱い部分を十分知っているかのように、彰人は巧みに口愛撫を続ける。
「他には…?」
一度口を離されて尋ねられ、快感で上手く働かない頭では、返答に遅れてしまう。
他にって……他に言いたい事は、沢山有る。
でも再度性器を口に含まれると、何も考えられなくなる訳で。
裏筋を舐められ、窪みを舌で突かれると、絶頂へと追い上げられて……
トドメだと言わんばかりに強く吸い上げられ、目の前が真っ白になった。
「ゃ…あ、彰人っ、好き…大好きだよぉ…ッ」
無意識の内に告白して、その後は高らかに声を上げて、彼の口内で吐精してしまう。
自分の服を掴みながら息を乱して、まだ痙攣を続けている身体を感じながら余韻に浸った。
「私の息子は、お前一人だけだよ…」
イッたばかりで思考がまだハッキリしていない僕へと、甘い声で彰人が囁く。
何を言っているのか分からなくて、ズボンを手馴れたように履かせてくれた彰人をじっと見つめた。
けれど彰人は、何も言わずに身体を離して、車から降りようとしている。
「やッ、行かないで…」
慌てて手を伸ばし、咄嗟に彼の服を掴んだ。
すると迷惑そうな態度を取るでも無く、彰人は必死に縋り付く僕の頭を、優しく撫でてくれた。
「大丈夫だ、傍に居るから…少し休みなさい」
優しい声で囁かれて、その上触れるようなキスをされて、身体の力が抜ける。
どうして、今の彰人はこんなに優しいんだろう。
あの時、要らないって言ったのは…僕の聞き間違いだったのだろうか。
もしそうなら、彰宏の言った言葉も、聞き間違いで有って欲しいな…。
心地良さで眠り掛けて、うとうとしている僕の前で、彰人は静かに車から降りて行った。
淋しく感じながらドアが閉まる音を聞いていると、運転席のドアが開いて、直ぐに彰人が乗り込んで来る。
眠り掛けのままその行動を不思議に思っていると、彰人は後部座席のシートで
寝転んでいる僕に一度視線を向け、少しだけ口角を上げて微笑んでくれた。
「しゃ、社長ッ」
外で慌てた声が聞こえて、坂井が運転席側の窓ガラスを叩いて―――
けれど彰人は、坂井には見向きもせずにエンジンを掛けて、前を向いてしまった。
「それと、私の恋人も…お前一人だけだ。」
何を…何を言っているの?
分かんないよ彰人…。
昨日良く眠れなかった所為か、もう限界だった。
襲い来る眠気に負けてしまい、重い瞼を閉じて……僕はそのまま、眠りに就いた。
目蓋を開けると、少しぼやけた視界に見慣れない天井が映った。
此処が何処だか分からなくて、目を慣らすように瞬きを数回繰り返す。
目を擦りながら起き上がり、室内を見回すと、視界に入ったのは畳が綺麗な広い部屋だった。
柔らかい布団の中から這い出ると、自分が浴衣を着ている事に気付く。
枕元には自分の腕時計が置かれていて、見るとまだ日付は変わっていなかった。
まだ、僕の誕生日の前日だ。
起き上がって近くの障子を開けると、廊下が続いていた。
続く廊下の端からは池が見えて、高そうな鯉が泳いでいるのが見えた。
何だかとても高級そうな建物の中みたいで、障子を閉めて部屋に戻った僕は、溜め息を零す。
「此処、何処だろ…」
「起きたのか、」
一人きりだと思って呟くと、後ろ側から彰人の低い声が聞こえた。
振り返ると、僕が先程開けた所とは反対側の障子が、少しだけ開いている。
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