Forget me not…31
「僕、彰人に嫌われるのは嫌だけど…彰人が自分を責めて苦しむぐらいなら、僕が嫌われた方が良いよ…」
本心だった。
彰人が苦しまなくて済むなら、僕は死ぬ事だって出来る。
「葵…お前は本当に、私を虜にさせるのが上手いな…」
「え?」
彼の唐突な発言に首を傾げるけれど、浴衣の中に滑り込んで来た温かな手に乳首を摘まれ、肩が跳ねる。
「要らないって、嘘だったんだよね…?」
早くも興奮で息を軽く乱しながら、震えた声で問い掛けた。
これで本当だ、なんて言われたら…僕は絶対、大泣きすると思う。
けど彰人は「当然だ…」と甘く囁いてくれて、乳首を指で慣れたように転がして来る。
「ん…っ、ふぁ…あっぁ…」
敏感なそこを弄られると、理性はいとも簡単に崩れて、快感を欲しがるように彰人を見つめた。
けれど…疑問が浮かぶ。
どうして、そんな嘘を吐いたんだろう?
「はぁ…あ、ねぇ…どうして?」
彰人の頬へと唇を甘えるようにすり寄せながら、そっと尋ねてみた。
僕の問いに、彰人は少し驚いたように眉を上げて、それから何だか躊躇っているように視線を逸らした。
理由が言い難いみたいだけれど、そんな態度を取られたら、更に聞きたくなると言うものだ。
「ねぇ、彰人…」
甘く掠れた自分の声が耳に入って、何だか恥ずかしい。
演技だってこんな声なんか出せないのに。
まるで欲しがるようなそんな声を出した僕へ視線を戻して、彰人は軽い溜め息を漏らした。
何か彰人、溜め息ばかり。
幸せが逃げちゃうよ?なんて言葉は呑み込んで、言葉を待つように彼をじっと見つめた。
「自分の恋人が、他の男に欲情しているのを目にして冷静で居られる程…私は出来た人間では無いからな。」
不機嫌そうな口調で言われて、僕は少し呆気に取られた。
彰人…嫉妬してくれたんだ?
って事はやっぱり、要らないと酷い言葉を言われたのも自業自得な訳で、申し訳無く思える。
でも欲情したのは彰宏がくれた飴の所為…って、勝手に呑み込んだのは僕だけど。
……やっぱり、僕が一番悪いんじゃん。
「けれど、言い過ぎた…お前の事をきちんと考えるべきだったな」
「そんな…っ」
悲痛な表情を浮かべる彰人に罪悪感が強まって、僕は慌てて首を横に振った。
「悪いのは僕だよっ、彰宏の作った変な飴飲み込んだりして…」
「葵…私はお前に、人から貰った物は食べないようにと、教えた筈だが?」
ぎゃあっ!
墓穴を掘ってしまった事に焦り、恐る恐る彰人を見つめると…
彼はその端整な顔に、とても鬼畜な笑みを浮かべていた。
「色々と、思い知らせてあげないとな…」
「ひぁ…あッ」
クスクス笑いながら囁かれ、乳首を少し強く抓られて、思わず悲鳴じみた声が上がった。
もしかして彰人、僕が変な飴を飲み込んだ事、知ってたのかな?
彰宏から聞いたとかって、何処まで聞いたんだろう…。
きっと根掘り葉掘り…だろうから、絶対知ってるに決まってる。
じゃあさっきの悲痛な表情は演技?
って事は…知っていた上で僕に白状させた?
うぅ…、だとしたら、本当にキチクだ…。
けど、そんなキチクな彰人でも、大好きで大好きで、仕方無いんだもん。
喜んで…って言い方は変だけど、お仕置きを受けようと思う。
でも、不意に思い出してしまう。
彰人は、僕じゃ満足出来無いんだって事を。
そう考えると、何だか悔しくて…僕は彰人の名を呼んだ。
「今日は…僕がする」
いつだって僕がすっごく気持ち良いままで、彰人に満足をさせてあげられないんだって事に、不満が募る。
「…珍しいな」
多少驚いたような彰人の声を耳にしながら、彼の首に絡ませていた腕を離した。
彰人の下から抜け出そうとするけれど、何でか彼はそれを許さずに、僕を抱き締めて来る。
「あの…彰人?」
折角決意したんだから、直ぐにでもフェラさせてくれたって良いのに。
けれど彼は口角をうっすら上げるだけで、僕を解放してくれない。
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