自慢の恋人…04
「彰、人…」
唾液を糸を引きながら、ゆっくりと舌を抜き去られ
葵は自分でも気付かない内に、物欲しそうな表情を浮かべる。
その表情が、彰人は好きで堪らない。
自分を余裕無く求めて来る恋人の顔が何よりも可愛く、この心を捕らえて離さない。
「……欲しいか?」
形の良い薄い唇が動いて、短い言葉を放つ。
葵は目元を赤らめ、少し恥じらいながらも素直に、小さく頷いて見せた。
そう云う仕種の一つ一つが彰人だけでは止まらず、他者の心までも捕らえて離さない。
それに自分で気付かず、演じる事でしか生徒達を夢中にさせる事は
出来無いのだと思っている辺り、少々不憫な気もする。
「葵、悪いが…お預けだ」
意地悪い笑みを浮かべながら、黒い瞳を細く眇め、薄く笑う。
予想外の言葉に戸惑った葵は、少し悲しそうに彰人を見つめた。
「ど、どうして…?」
控え目に問いながら、やや俯き加減になる葵の顎を
彰人は指で優しく掬い上げ、クスクスと甘く笑う。
「お前のプレゼントを二人で見に行こうと思って、な。……悪くは無いだろう?」
「彰人…っ」
あまりの嬉しさで葵は一瞬、泣きそうに顔を歪ませるが、それは直ぐに笑顔に変わる。
坂井が予測した通りに幸せそうに笑い、嬉しいと何度も繰り返す。
「だからな、出掛ける前から疲れて貰っては困る。分かったかな?」
優しく穏やかな声音に葵は胸が熱くなり、嬉しそうに頷く。
けれど先程のキスで硬くなってしまった自身に気付いて
気まずそうに彰人から視線を逸らし、内心焦りながらも、自分の服を探すように室内を見回す。
「あ、彰人…ちょっと、離して…」
このままではバレてしまいそうで、葵は僅かに頬を赤らめながら頼み込む。
衣服を一つも纏って居ない、殆ど密着しているこの状態では
少し動いただけで自身が、彰人の衣服に擦り付けられる事になってしまう。
そうなればもう、後の祭りと云うやつで………。
不安げな表情を浮かべている葵を見て、彰人はようやく、少しだけ身体を離した。
その事に葵は安堵の息を吐いたが、滑らされた手に自身を握り込まれると、息を呑む。
「彰、彰人っ、な、何で…?」
「お預けとは云ったが、達かせてやらないとは云っていないだろう、」
「あっ…や、…んっ」
彰人の手に揉むように扱かれ、甘く突き抜けるような快感に、葵の身体が震える。
けれどこればっかりは素直に受け入れる事は出来ず、葵は必死でかぶりを振った。
「だ、だめ…っ、早くデート、したい…」
だから我慢出来る、と続かせる葵に、流石の彰人も参ったように頭を抱えたくなる。
嫌々と首を振りながら我慢し、欲望を抑えてまで早く出掛けたがっている葵に
有名大企業の社長とも在ろう者が、完璧に心を鷲掴みにされてしまった。
「仕方ないな……我慢出来なくなったら、云いなさい。いつでも満足させてやる」
「う…うん、」
性器から手を離し、赤面している葵へと軽く口付けると、相手は恥ずかしそうに視線を落とした。
恐らく、こんな些細なキスにすら、興奮してしまっているのだろう。
抑制も無く、自慰もろくに出来無いようなこの子が、
我慢なんて出来るのだろうかと思うと、つい笑みが零れてしまう。
勃ち上がった性器を慰めずに静まるのを待って、情欲も興奮も発散出来無いままで………
果たしてどれぐらい持つのか、見物だ。
抱いていた葵の身体を解放してから、彰人は物入れから携帯を取り出す。
何処かに電話を掛けている彰人を暫く眺めていたが、
自分の服が枕元に丁寧に置かれているのを目にした葵は直ぐにそれを着始める。
「私だ。…一つ、頼みが有る」
「社長直々の頼みなんて、幾らでも聞きますよ」
やけに明るく印象的な、何処となく独特の声をしている相手は、愉しそうに用件を尋ねて来る。
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