the mating season…08

「な、鳴瀬…、ぼ、僕は…、んっ…」
「ん?どうした、坊っちゃん」
 小さな声で言葉を漏らすと、鳴瀬はあっさりと僕の耳から離れた。
 何処と無くニヤニヤしている相手の顔から目を逸らし、弾む息に羞恥を感じながらも口を開く。
「あ、あの…僕は…その、どうして…?」
 まだ混乱している所為か、言葉が足りない質問をしてしまう。
 意味がきちんと上手く伝わるような問いでは無いのに、相手は理解したかのように、あぁ…と呟いた。
「宮下な、理性無くすと…低音美声っつーの?そう云うのが出るんだよ。
俺は全然平気なんだけど、普通の奴が聞いたら、坊っちゃんみたいに気絶したり…腰抜けたりとかするんだよな、」
 冗談みたいな事を当然のように説明して、相手はにこやかな微笑みを浮かべた。
 さっきの行為の所為でまだ息を弾ませ、顔を耳まで真っ赤に染めて
 瞳まで潤ませている僕を、まるでじっくりと眺めるかのように鳴瀬は目を細めて…。
「ついでに云うと俺の声も、そう云うの有るんだけどな。
宮下のとはちょっと違って……俺が惚れた相手じゃないと、効果がねぇんだけど…」
「え…、」
 悪戯っぽく微笑みながら、そんな事を云って来た。
 思わず不思議そうに相手をじっと見つめてしまう僕を、鳴瀬は暫く
 何も言わずに眺めて……やがて形の良い唇が、うっすらと開く。

「相手の性欲を引き起こす効果が有るんだよ。……媚薬効果ってヤツ、」
 その言葉を聞いた瞬間、僕の中で嫌な予感が膨らみ、逃げるように身を引こうとする。
 けれど身体は思うように動かず。
 そんな僕を愉しむように相手はクスクスと笑い、再度僕の耳元へと唇を寄せて来た。
 思わず肩をすくめて怯んでしまう僕の耳に、軽く息を吹き掛け……

「坊っちゃん……試してみるか、」
 今まで聞いていた綺麗で響きの良い鳴瀬の声が、全く別の物に変化して
 そんな言葉を紡ぎ、耳の奥へと滑り込んでゆく。
 ゾクゾクするような、脳天に直下するような頭の中が一気に真っ白になるような声で、
 直ぐに鼓動は速まり、さっきよりも更に身体が熱くなって……何も考えられない。
「ほら、効いて来ただろ?」
「ぁっ…ンんぅ…っ」
 布越しで軽く性器を撫でられ、それだけで好すぎて、涙が零れそうになる。
 下唇を咬みながら必死で声を抑え、相手の身体を押し戻すように、両手に力を込めた。
 けれど、力なんて全く入らない。

「……宮下の声聞いた上に、俺の声まで聞いちまったんだから、力なんて入らねぇだろ?」
 綺麗な声が耳元で聞こえ、身体が震える。
 背筋がゾクゾクして、身体が自分のものじゃないかのように、全く力が入らない。
 服が汗の所為で身体に纏わりついて、溶けそうなぐらいに身体は熱くて……張り詰めた箇所が、苦しい。
「ゃ…ぁっあ、…く、るし…っ」
 乱れる呼吸の合間に訴え、縋るように相手へ、自らしがみついてしまう。
 身体が触れるだけで感じちゃう程、過敏になっていて…そんな自分を嫌悪する事すら出来無い。
 何も考えられず、ただ快感が欲しくて、楽になりたい。
「鳴瀬っ、おまえ…使ったのかっ」
 必死で鳴瀬にしがみついている僕の耳に、焦ったような声が聞こえる。
 低くて、響きがいいようなこの声は……誰だったろう。
 判断力さえ欠けてしまっている僕の顎を、鳴瀬はそっと掴み上げる。
 その顔は、愉しそうに微笑んでいて、形の良い唇が少し動いた。
「宮下、少し黙ってろよ。坊っちゃん、かなり苦しそうだし…楽にしてやらないと。
……なぁ、坊っちゃん、そのままじゃ辛いだろ?」
 囁くような問いに、僕は何も考えられずにただ何度も頷く。
 性器を直に触って欲しいし、疼く内部を熱い塊で静めて欲しいしで……楽になる事しか、考えられない。
「楽になりたいだろ?」
「んっ、ぁっあぁ…ッ…んん…っ!」
 ねちっこく布越しに性器を撫でられ、軽く揉まれて、声が漏れる。
 口元に笑みを浮かべて、僕を見下ろしている鳴瀬を縋るように見つめながら、何度も頷いた。

 楽になりたい。
 ……この身体を、どうにかして欲しい。

「ほら、見ろよ宮下。楽にして欲しいって、本人も云ってるんだ」
 甘い声で囁きながら彼の指は僕の胸元へと滑り、シャツの上から既に尖っている乳首を、軽く抓って来た。
「あぁ…ッ!」
 その衝撃に身体はビクンっ…と跳ね、我慢出来ずに高い悲鳴じみた声が漏れてしまう。
「………坊っちゃん、俺が楽にしてやるよ、」
 耳元でそう囁かれ、性器を布越しにさすられて、我慢なんて出来無い。

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