the mating season…10

 彰人に見せられる顔なんて無いとでも云うように、慌てて背を向けようとする僕を……彼は許してはくれない。
 肩を掴んで自分の方に向かせた上で、抱え込むように抱き寄せてくれる。
「ごめ、ごめんなさ…っ、めん、なさ…」
 無意識の内に謝罪の言葉が漏れ、彰人に軽蔑されても
 当たり前なんだと思いながら、僕はしがみつくように彰人の首へと両腕を絡めた。

 軽蔑されても当たり前で……僕の一番恐れていた事も、当然、起こるに決まっている訳で……。
 何度も謝罪の言葉を漏らし、泣きじゃくる僕の顎をゆっくりと掬い上げ、彼は目を細める。
「大抵の事は宮下から聞いた。……嫌だと、泣いて拒んだそうだな」
 綺麗な指が、宥めるように僕の髪を梳いて、ゆっくりと優しく頭を撫でてくれる。
 その感触にすら、淫らな身体は感じちゃって……どうしようも無い。

「で、でも…感じちゃって、ぼ…僕…彰人以外の人っ、触られて…声出して…」
 自分から、鳴瀬にしがみつく事もした。
 触られて、彰人の事すら頭に無くて……ただ、気持ち好くなる事しか頭に無かった。
 僕は、彰人を裏切ったんだ。

「そうか。……いけない子だ、」
 身体が強張るような言葉を返され、涙が止まらない。

 彰人を裏切ってしまった。彼の一番嫌う行為を、してしまった。
 彰人に嫌われてしまったら、僕は……。

「き、嫌いに…なら、ない…で」
 搾り出すように漏らした自分の声は、あまりにも弱々しく、震えていた。
 快楽に負けて、彰人のことを忘れてしまうような、そんな最低な僕は、嫌われて当然だ。
 当然だと分かっていても、見っとも無く縋りついてしまう情けない自分が、更に最低に思える。
「葵…少し落ち着きなさい、」
 取り乱して、泣きじゃくりながら謝罪を繰り返して、嫌わないでと何度も縋り付くように
 言葉を発している僕の頭を優しい手付きで撫でながら、彰人は穏やかな口調で囁いてくれる。
 上手く働かない頭の中で、彰人に嫌われたくないと云う考えだけが、
 ひたすら回り続けている僕には……彰人の言葉が、全く通じない。

「嫌わない…で、お願…」
「……手間の掛かる子だ、」
 やれやれ…と迷惑そうに呟いて、彰人は僕をソファの上へと座らせてくれる。
 彼の身体が離れてゆく感覚に、まるで見捨てられた気持ちになって、胸が痛んだ。
「葵、もう一度訊くが……、」
 低くて魅力的な声が耳に入り、一瞬理性が飛びそうになった。
 慌てて理性を保つように、首を何度か軽く振り、ゆっくりと顔を上げる。
 まるで迫るように近くに居る彰人が僕を見下ろしていて、端整なその顔を更に近付けて……

「服の上からだけで、おまえは満足出来るのか?」
「ぁあ…っふ、…んっ」
 彰人の綺麗な指がゆっくりとした手付きで、張り詰めている股間部を撫で上げて来た。
 自分でさすっていた時よりも快感や興奮が強く、背筋がゾクゾクする。
 もっとして欲しいと伝えるように、僕は彰人の首へと両手を絡めた。

「葵…答えなさい、」
「んぁ…ッ、ぁあっぁ…っ」
 ゆるやかに何度も撫でてくれる彰人の手の感触に、つい夢中になり掛けていたけれど、
 厳しい口調で返答を促され、僕は弱々しく首を振った。
「出来な…っ、出来ない…よぉ…っ」
 しゃくり上げながら告げて、僕は無意識の内に何度も彰人に向かって、助けてと呟いた。
 腰を動かして、彼の手に股間部を押し付けるような真似までして……本当に、はしたない。
 すると彰人の手は、いつものように手早く僕のズボンを脱がし、下着も靴も全て脱がしてゆく。
 靴下は脱がさない辺りが、彰人らしい。
「だろうな。……なら、これで満足か?」
 汗や先走りでぐっしょりと濡れている下半身を露わにされ、耳元で低く、甘い声でそう囁かれた。
 小ぶりな性器に、彰人の綺麗な指が絡められる。
「あぁッあ…!んンぅ…ッ、彰…人、」
 直に触れ、ゆるゆると扱き上げて来るその感触に、身体が震えた。
 触っているのが彰人だと云う事が、快感や興奮を強めてくれるようで。
 少しでも気を抜くと、何も考えられなくなってしまいそうな程……気持ち好い。

「葵、どうだ?…きちんと答えてごらん、」
「んやっ、ぁあっあ…ッ!」
 直ぐにでも射精してしまいそうなのに、彰人の指が根元を抑えて来た為に楽になれず、
 その上、敏感な亀頭を撫でて来るものだから理性が飛びそうになる。
 塞き止めている彰人を責める余裕すら無くて、首を嫌々と小さく振ることしか出来無い。
 縋るように彼を見上げた僕の目に映った彰人の口元は、愉しそうに歪んでいて……
 彰人が微かに舌なめずりしているのを目にした瞬間、僕は無意識に、綺麗で形の良いその唇へと指を這わせていた。

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