the mating season…14
お陰様で、死んじゃいそうなぐらい気持ち好い、満足出来るエッチをして貰ったから…。
そんな言葉が頭に浮かんで、恥ずかしさでつい赤面してしまう。
すると彰人は目を細めて喉の奥で笑い、前髪を掻き上げるようにして、僕の頭を撫でてくれた。
「鳴瀬がそんな危険なものを持っていたとはな…流石の私でも、気付かなかった」
「ぇ…、あ…」
彰人の言葉を耳にして、鳴瀬の発した声を思い出す。
思い出すだけで少し興奮は強まるけれど……あの時ほどじゃない。
実際に間近で聞いて、強い効果を発揮するのかと理解し、それと同時に、彰人を裏切ってしまった事まで思い出した。
「あ、あの…彰人…僕、」
どうしよう…と、その考えだけが頭の中で回り続ける。
躊躇いがちに言葉を漏らすけれど、その続きが、一向に出て来ない。
「彰人……ごめん、なさい…」
暫くの間黙り込んだ結果、漏れた言葉はあまりにも単純な言葉だ。
謝罪を口にした僕を、彰人は一瞥してから、軽く溜め息を漏らした。
その溜め息に、胸が痛む。
「今回の事は…お前一人が悪い訳では無いだろう、」
「え…、」
「鳴瀬がそんなものを持っている事に、気付かなかった私にも非は有る。
……気付いていたら、お前にあいつを近付けさせなかったんだが、な…」
今の彰人の言葉が本当なら、僕は……。
「嫌われて、ないの…?」
拍子抜けしたような表情を浮かべながら、呟いた。
彰人はいつもと変わらない雰囲気で、あぁ…と囁いて、そして額に優しいキスをくれる。
その感覚に、じわりと涙が滲んで、堪らずに僕は彰人に抱き付いた。
「ぼ、僕…彰人を裏切ったから、だから…嫌われたかと、思って…」
「相変わらず、大袈裟な子だ…」
迷惑そうでも無く、そう囁かれるものだから、涙は止まらない。
零れる涙を彰人が優しく舐め取ってくれて、その上瞼にまで
キスをくれるから、そんな優しい彼が好きで好きで堪らない。
「それで、葵……鳴瀬だが。おまえが気にするのなら、解雇してもいいが…」
唐突な彰人の問題発言が、幸せに浸っていた僕には上手く呑み込めない。
遅れてやっと理解してから、僕はあれこれと考え始めた。
あの悪ふざけみたいな行動を、鳴瀬がしてしまったのは……僕の所為だと云う事は、分かっている。
街中で発情してあんな声を漏らしちゃって、その上、耳元で囁かれただけで
喘いじゃったんだから、僕から誘ってしまったようなものだ。
「あ、あの…鳴瀬って、優秀なんでしょ?」
「……坂井ほどでは無いが、優秀だ」
さり気無く、坂井の自慢みたいな事を口にされて、ちょっと嫉妬してしまう自分が嫌だ。
本当に、坂井は彰人のお気に入りだから……正直、羨ましい。
じゃなくて、今は鳴瀬の事を考えなきゃ。
慌てて嫉妬に走ってしまいそうな自分の考えを抑えて、彰人をじっと見上げる。
「優秀な人を辞めさせちゃうと、彰人……困るでしょ?」
昔みたいに、多忙で睡眠も取れなかった彰人を見て、まだ幼かった僕は
彼の身体を心配して泣いてしまったほど、彰人命だもの。
だから彰人命な僕としては、彼の仕事の負担は少ない方が良い。
「鳴瀬一人居なくなった所で……いや、あいつを解雇すると、宮下も辞任するだろうな。」
「え、宮下も?」
確かに、仲が良さそうな二人だ。辞めるとなると二人一緒に、と云うイメージが固まる。
でも、優秀な人が二人も辞めちゃったら……彰人、忙しくてまた家に帰って来れなくなるんじゃないだろうか。
「だ…だっ、駄目だよ彰人ッ」
「そうか。それなら、解雇は無しだ」
慌てて抗議すると、やけにあっさりと認められてしまい、いささか気が抜けてしまう。
僕に手を出した人には何故か、結構容赦しないのが、このお父様なのに。
坂井どころか鳴瀬まで、彰人のお気に入りなのだろうか。
それとも……僕、やっぱり嫌われちゃったのかも……。
悪い結果ばかり考えてしまい、思わず半泣き状態になってしまう僕を見て、彰人は不機嫌そうに眉を顰めた。
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