鳥籠…11

「カシラ…三年前の遠山組との抗争中、遠山に姐さんが殺された事、忘れた訳じゃ有るめぇ、」
 苛立ったように椅子から立ち上がり、舎弟頭の木場が声を荒げた。
 その場に居た幹部連中の極少数は、反目に回っている。
 納得している者達は既に榎本に買収されており、皆傘下に入るべきだと口を揃えた。
 その異様とも呼べる光景に、樋口はゆっくりと一人掛けのソファから立ち上がり、榎本をねめ付ける。
「遠山の傘下に入るってぇんなら、樋口組は一本でやって行くぜ、」
「何だとッ?」
 それまで平静だった榎本の表情が、一気に驚愕なものに変わる。
 周囲の男達も、驚きを隠せずに樋口を見据えていた。
「ひ、樋口…何を云ってるんでぇ。考え直せや、な?」
 木場の縋るような声にも樋口は耳を貸さず、口元を歪ませて笑う。
 樋口の鋭く冷たい視線は、榎本だけに向けられ、流石の榎本も多少青褪めていた。
「お前に居なくなられたら、桜羅はどうなる?考え直せ、樋口…」
 青褪めた榎本が、苦々しげに言葉を発する。

 桜羅会の勢力の大半は、樋口組が占めていると云っても、過言では無い。
 樋口が居るからと云う理由で桜羅会の傘下に加わる組織も多く、その樋口が
 桜羅会を抜けるとなると、勢力は激減してしまうだろう。
 その場に居る誰もが予期せぬ事態に、幹部連中は一様に困惑の眼差しを樋口へ向けていた。

「考え直せ、だと?」
 ハッ、と相手を小馬鹿にするように笑うが、その身に纏っている威圧感は、決して笑えるものではない。
 足をゆっくりと進め、榎本の方へ歩み寄る樋口を、その場に居る人間全てが、目で追ってゆく。
 目の前まで近付いた樋口は榎本の、背広の襟の幹部徽章へと、火が点いたままの煙草を押し付けた。
「頭、考え直すのは、てめぇの方だろうがよ。えぇ?猛を戻した上、遠山の傘下だと?
……笑わせてくれるじゃねぇかよ、なぁ…」
 思わずゾクリとするような凄絶な笑みを浮かべ、凄みを利かせた、低く鋭い声が響く。
 間違いなく、その場に居る誰もが、樋口を恐れていた。
「ひ、樋口…」
 木場が震えた声で樋口を呼ぶが、樋口は何も答えずに足を進め、部屋から出て行こうとする。
 樋口を皆が皆、止めようとするが、情けなくも樋口の迫力に震え、声が出ずにいた。

 桜羅会系樋口組組長の樋口芳樹はこの日、桜羅会の若頭榎本康史と、訣別した。



 樋口は戻って来るなり海藤に何かを命じた後、凪をあの鳥籠のような部屋へと連れて行き、
 直ぐにベッドの上へと組み伏せると服を剥ぎ取った。
 驚き、戸惑う凪には構わず、樋口は凪の身体へと愛撫を施してゆく。
「ぁ…あ…、ひ、ぐちさ…、」
 久し振りの快感に身を震わせ、息を切らしながら自分を呼ぶ凪の姿に、樋口の劣情がそそられる。
 丁寧に凪の乳頭を舐め、吸い上げ、反対の乳頭も親指の腹でグリグリと押してやると、凪の身体はビクビクと震えた。
 じっくりと執拗にそこだけを愛撫していると、凪の腰が堪らなさそうに揺れ動く。
「ゃ…樋口さ…そこ、そこだけじゃ…」
「なら何処が良いんですか?ご自分で仰って下さい、」
 顔を上げ、口元に優しげな笑みを浮かべながら、樋口は目を眇めて囁く。
 だが片手は休む事も無く、凪の乳頭を転がすように撫で、指の間に挟んでは擦り上げる。
 返答するのを嫌がるように凪は首を横に振るが、腰はもどかしそうに揺れ続けていた。

「凪君、仰って下さらないと、分かりませんよ…?」
 目を眇めて微かに舌なめずりし、クスクスと笑いながら、樋口が低い声で囁く。
 そんな樋口の態度に、凪は更に頬を赤らめ、羞恥を堪えるかのように視線を少しだけ逸らした。
「し…下、下が…いい、」
「下、と云いますと…?」
 笑いながら意地悪い言葉を吐くが、樋口の手は肌を滑るように下肢へと向かってゆく。
 指先で胸元から腹部をゆっくりとなぞり、やがて上を向いている凪自身をやんわりと握り込む。
「此処、ですか?凪君…」
「ん、そ…そこ…ぁ、ああッ」
 凪が答えると同時に樋口は手を動かし、先端から溢れている先走りを、拭うように指でなぞり上げる。
 その刺激だけで鋭い快感が自分の身体を突き抜ける事に、凪は少し戸惑っていた。
 久し振りの行為だからだろうか、以前よりも感じ易くなっている。
 樋口もそれに気付いたのか、満足そうな笑みを零し、凪の性器を揉み込むように扱き始めた。
「あっ…ぁっ、樋口さ…ッ」
 縋りつくように相手を呼び、凪は樋口の首へとしがみ付く。
 まるで甘えて来るような凪の姿に劣情が煽られ、樋口は愛撫を続けながらも、凪の顔中へキスを繰り返した。

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