鳥籠…13

 凪は自分を恨み、嫌悪している筈だ。
 それなのに、恨んでいる自分に対し、そんな考えを抱いて沈み込んだりするだろうか。
 と、すると……凪は、自分の事を実は好いてくれているのでは無いだろうか。
 淡い期待を胸に抱き、樋口は唇が触れそうな程に顔を近付け、低く通る声で凪の名を呼んだ。

「厭きる筈が有りません…凪君の身体は、十分満足出来ますから」
 樋口なりに想いを告げた発言だったが、自分は抱き人形でしか無いと想っている凪にしてみれば、
 樋口のその言葉は、胸を痛ませるだけだった。
 やはり自分は身体だけなのだと考え、凪は逃げるように視線を逸らした。
「この所、元気が無いように思われたのは、その考えの所為ですか、」
 囁くような樋口の問いに、凪は胸を熱くさせる。
 悩んでいる素振りなどあまり出さなかったし、気付かれる筈が無いと思っていたのだ。
 だが、樋口は自分が落ち込んでいる事に、気付いてくれていた。
 樋口は自分を、きちんと見てくれていたのだ。
 そう思うと、凪は相手へ視線を戻し、小さく頷く。
「やはり、そうでしたか。…凪君、不思議で仕方ないのですが……何故、その様な事で深く悩んでいたのですか?」
 凪の心情を知る機会だと言わんばかりに、樋口が穏やかな声で尋ねる。
 本当は恨んでも、嫌ってもおらず……実は好きなんだと。
 そんな言葉を凪の口から聞きたいと思い、そう云ってくれる事を密かに樋口は期待していた。

「あ、あの…僕、僕…、」
 凪の鼓動が速まり、震えた声で言葉を何とか紡ぐ。
 緊張しているのか、凪の身体は小さく震え、続く言葉が一向に出て来ない。
 だが樋口は、焦れた態度も見せない。
 どれだけ時間が掛かろうと、それが凪の言葉で有れば、樋口は幾らでも待てた。

「僕…厭き、厭きられ、たら…捨てられ、ると…思って、」
 樋口に捨てられたくない、と言う意味を込めた、凪なりに想いを告げた
 精一杯の発言だったが、樋口の顔には喜びの表情は浮かんでいなかった。
 凪が捨てられる事に不安を感じていたのは、自分の事を好いているからでは無いのだと、樋口は考えていた。
 兄と父が凪を置いて夜逃げした事が、気付かぬ内に凪の心の傷になっているのだろう。
 その所為で、誰かに捨てられる事を必要以上に恐れてしまうのでは無いかと。
 樋口はそう考え、安心させるように、凪の頭を優しく撫でてやる。

「凪君は何も心配する事なんざ、有りません。……大丈夫ですよ、」
「樋口さん…」
 樋口の優しい態度に胸を熱くさせ、思わず凪は相手の首へとしがみついてしまう。
 驚く樋口には構わず、自ら啄ばむような口付けを数回繰り返し、恥ずかしそうに凪は相手を見つめた。

「続き、して。……樋口さんに気持ち好くなって貰いたいし…
僕には、これくらいしか、樋口さんに返せるものが無いから」
 返せるものとは、礼の事なのだろう。
 律儀な凪の事だから、礼のつもりで今まで抱かれていたのか…と、樋口はぼんやり考える。

 ―――――だから今まで、抱かれる事に強く抵抗などせず、逃げもせずに俺の傍に居たのか…。
 そう考え、心中で溜め息を吐きながらも、自分にも気持ち好くなって貰いたいと云う凪の言葉に樋口は興奮していた。
 それに、先程から凪の媚態を目にしていたのだ。
 魅力的なその姿を目にした所為で、樋口の股間部はしっかりと勃起してしまっている。

「そう仰るなら、遠慮無く…頂きます、」
 口の片端だけを吊り上げて笑い、樋口は片手でベルトを外し、ズボンの前を開く。
 中から怒張した赤黒い雄を取り出すが、それは余裕が無かったのか、先端から既に蜜を溢れさせていた。
 雄々しく立派にそそり立っている樋口自身を目にして、凪は微かに震えていた。
 もう何度も抱かれていると云うのに、凪は凶器のようなソレを目にしては、震えてしまうのだ。
「凪君、大丈夫ですよ…痛くしませんから、」
 甘く笑い、樋口は凪の頭を梳くように撫でてやる。
 凪の怯える姿に苛ついた様子も無く、むしろそんな凪だからこそ、愛しいと思っていた。
 片手でジェルを自身に塗りつけ、やがて逞しいソレを、凪の蕾へとあてがう。
「樋口さん…僕、平気だから……早く、」
「早く、……何です?」
 揶揄するように笑いながら尋ねて来る樋口を目にして、凪の顔が赤らむ。
 羞恥を堪えるように視線を少し逸らし、けれど腕を伸ばして樋口の首へとしがみついた。
「早く……来て…」
「いい子ですね。可愛らしい…」
 微笑んで甘い声で囁くと、凪の唇を奪い、ゆっくりと腰を押し進めてゆく。

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