鳥籠…14

 指で十分解し、ジェルで滑りは良くなっているものの、
 凪の入口は狭く、一番太い亀頭を挿入する事に樋口は少々手こずった。
 凪に痛みを与えないよう、細心の注意を払っているからだ。
「んっ、ぅん…んッ…」
 樋口に塞がれている唇から、少し苦しそうな凪の声が聞こえたが、
 圧迫感に眉を寄せているだけで表情に痛みの色は伺えない。
 一度挿入を止め掛けた樋口だったが、それを確認した上で、再度ゆっくりと腰を進める。
 先端が全て入り込むと後は楽に入り、根元まで挿入して樋口は一度動きを止めた。

「凪君、分かりますか?凪君が俺のを深くまで、咥え込んでいる…」
 ちゅくっと音を立てて唇を離し、満足そうに樋口が囁く。
 樋口のモノが隙間無く内部を埋め尽くしているのを感じながら、凪は何度も頷いた。
「うん…、わ…分かる…」
「凪君の中、熱過ぎますね……それに、かなりキツイ…」
「ひ、樋口さんのだって…あ、熱いよ」
 樋口の言葉に羞恥を煽られ、自分も樋口を恥ずかしがらせようと、凪は精一杯の言葉を放つ。
 だが樋口は愉しそうに口元を歪ませ、目を眇めて凪の耳元へと唇を近づけた。
「ナギが、可愛過ぎるのが悪いんだろう…?責任、取って貰うぜ…」
 低い声で囁かれ、やんわりと耳朶を咬まれて、凪の背筋にゾクゾクとした寒気が走る。
 普段丁寧な言葉で喋られている分、稀に今のような口調で喋られると
 余計に樋口が男らしく感じてしまい、凪の鼓動は速まるばかりだった。

「動きますね……力、抜いてください、」
 何度か抱かれ慣れている為、凪は小さく頷いて力を抜くものの、若干身体は強張っている。
 それでも、初めて凪を抱いた時よりかは、幾らかマシな方だった。
 あの時は、上手く力を抜く事の出来無い凪の性器を刺激しながら、
 それはとても慎重にゆっくりと押し入ったものだ。
 同性を抱く事など初めてだが、女は何度も相手にし、相手を欲求の解消の道具としか
 扱っていなかった自分にしては、信じられないぐらい優しく、慎重に抱いた。
 そして、それは今もあまり変わらない。

「はぁ、は…ッ樋口さ…、んっ、ん…ひぐち…さッ」
 次第に腰の動きを速めると、凪は息を弾ませ、夢中で樋口を呼ぶ。
 この瞬間が好きで堪らない樋口は、満足そうな吐息を漏らしながら、深く凪の身体を突き上げた。
 知り尽くした好いヶ所を重点的に突き、角度を変えて凪の泣き所を抉るように、腰を激しく動かす。
 凪の足を肩に担ぎ上げ、より深く押し入る為に身体を倒すと、凪は堪らなそうに首を振った。
「ゃ…ッぁあ…っ!だ、だめ…っ」
「駄目?…何が、駄目なんです?」
 自分の首へ更にきつくしがみ付き、涙ながらに訴えて来る凪を見て、樋口は薄く笑う。
 駄目と云っておきながらも、凪の腰は既に自ら誘うように揺れ、性器は先端から蜜をとめどなく溢れさせている。
「駄目だと云うなら、抜きましょうか?」
 意地の悪い言葉を吐き、樋口は徐に自身を抜き始める。
「あ、ゃ…抜か、ないで…っ」
 弱々しくかぶりを振り、涙ながらに懇願する凪の姿に、樋口の情欲が煽られた。
 クスッと甘く笑い、抜き掛けていたソレを再度奥へと沈めてゆく。
「全く、凪君は我儘ですね」
「んっ…んっ」
 羞恥で耳元まで赤く染めた凪は目をきつく瞑り、片手の指の背を咬んで声を殺そうとした。
 だがそれは、樋口に手を掴まれて握られる事によって、直ぐに止めさせられる。

「あぁっ、ぁ…樋口さ…ッ」
「芳樹、ですよ…ナギ。……ほら、呼んで下さい」
 腰を再度激しく動かし始めながら、樋口はあやすように優しい声色で囁いた。
 一瞬、躊躇の色を浮かべた凪だったが、巧みに腰をグラインドされて
 激しく打ち付けられ、理性など直ぐに吹き飛んでしまう。
 グチュグチュと淫らな水音が室内に響き渡り、息を乱す二人の情欲を、更に掻き立てた。

「あっ、あぁッ…しき、さ…、はぁ…あっ、芳樹さ…んっ」
「ッ…ナギ……、…………好きだ、」
 乱れた息の合間から、樋口の少し上擦った囁きが漏れるが、
 理性の吹き飛んでいる凪の頭には、上手くその言葉は入って来ず。
「はぁっ…んんッ、よ…しきッ…芳樹さ、…ぁっあああ――っ」
 凪は夢中になって樋口を呼び、愛する相手の身体へと、きつくしがみついた。



 スツールに腰掛け、煙草を燻らせている樋口の前に、行為が終わったのを見計らってから
 部屋へ入って来た海藤が、姿勢良く立っていた。
 ベッドの上で、疲れ果てて眠っている凪へと一度視線を向け、樋口は煙を吐き捨てる。
「…それで、どうなった」

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