溺れる小鳥…09
「それから、他には何を?」
「ん…っ、ほ…他には、身体に、キスされて…」
樋口は凪の言葉を聞くと、その通りに凪の素肌へ唇を寄せ、触れるだけの軽いキスを繰り返す。
その度に凪は興奮が強まり、堪らなそうに目を瞑る。
顔を赤らめ、悩ましげに眉根を寄せている凪の姿を目にすると樋口は我慢出来ず、唐突に身体を下方へずらした。
凪のズボンの裾をそっと捲くり上げ、露わになった膝頭へと唇を寄せる。
「ひ、樋口さん…っ?」
そんな事は猛はしていないとでも云うように樋口を呼ぶが、
上目遣いに見つめて来る樋口と視線が絡むと、直ぐに言葉を無くす。
それに気を良くしたように樋口は笑い、凪の爪先へと顔を寄せ、丁寧に足の指を舐め上げた。
「は、ん…んっ、だ…だめ、そんな、ところ…」
足の指の間へ舌を這わせられ、ゾクリと背筋が震える。だが、それは決して嫌な寒気ではない。
そんな所で感じるような自分にいささか戸惑いつつも、凪は足を樋口から遠ざける。
しかし樋口は凪の足首を掴み、指先へ一度キスをしてから、尚も執拗に舌で指の間を舐ってゆく。
「ふっ…ぁ、ん…んぅ、ん…っ」
中指と薬指の間まで辿り着くと、凪は弱々しく首を振りながらも、あからさまな反応を示す。
濡れた瞳を向け、息を弾ませながら鳴き、樋口を甘い声で呼ぶ。
「気持ち好いですか、凪君」
「ん、ン…、はぁ…あ…っ」
指の間に樋口の吐息が掛かると、凪は小さく肩を跳ねさせ、何度も頷いて見せた。
凪の媚態を食い入るように見つめていた樋口だったが、
一度小指へキスをしてから顔を離し、凪の目の前へと再度戻る。
「それから、他には?」
息を弾ませている凪へと語り掛けるが、凪は既に興奮を抑え切れないのか、縋り付くように樋口を見つめている。
「……キス、舌…絡められて、激しいの…された、」
猛にはそんな事はされていなかったと云うのに、凪は空言を吐く。
鋭い樋口は凪の発言が嘘であると見抜いてはいたが、滅多に嘘を吐かない凪が
珍しく吐いた愛らしい嘘に、胸を熱くさせていた。
唇をそっと重ね、何度か軽く啄ばむようなキスをし、柔らかな唇を舌先で舐めると、凪は身体を震わせた。
軽く唇を咬んでから舌を口腔へ深く侵入させ、じっくりと凪の舌を絡め取る。
「ふっ…ぅん、んっ…」
凪も自ら舌をぎこちなく動かし、樋口の舌を自分のそれで擦り続ける。
巧いとも呼べず、慣れているとも云えない凪のぎこちない舌遣いが、
更に樋口の劣情を煽る事に、凪は気付いてはいない。
「それで、次は何を?」
「…ぁ、」
唾液の糸を引きながら舌を徐に抜き、唇を離して尋ねると、凪は残念そうな声を漏らす。
物足りなさそうに樋口を見上げ、だが直ぐに、恥じらうように目を伏せた。
「し……し、下…触って…」
空言と云うよりも、ねだりと呼べる凪の言葉に樋口は手を動かし、凪の性器を布越しに撫で上げる。
既にそこは張り詰め、樋口が少し撫でただけで、凪の体には言いようの無い甘い疼きが走った。
丁寧な仕種で凪のズボンを下着ごと脱がした樋口は、既に先走りで
ぐっしょりと濡れている性器を目にし、興奮したようにゴクリと喉を鳴らす。
「凪君、凄いですよ。…ベタベタに、濡れている、」
大袈裟とも云える言葉により、羞恥に苛まれている凪を見下ろしながら、樋口は透明なぬめりを指先で掬い上げる。
「こんなに濡らして……俺に舐めて貰いたいんですか、」
揶揄するように笑いながら囁く樋口に、凪の熱が一気に上がった。
違うと云うようにかぶりを振るが、濡れた鳶色の瞳は、誘うように樋口を捕らえている。
凪の瞳に見つめられると呆気ない程簡単に欲情してしまう樋口は、
そんな自分に半ば呆れつつも目を細め、濡れた指先を凪に見せ付けるように舐め上げた。
「ひ…樋口、さん………お、お願い…」
羞恥を煽るばかりの樋口の態度に堪えきれず、震えた声で懇願する。
縋りついて来るような凪の眼差しに、樋口は薄く笑いながら、不意に唇を奪った。
「それで……次は?猛に、何を?」
「手、手で…達かせて、」
猛にされた事ではなく、今樋口にされたい事を恥じらいながら口にする凪の姿に、樋口は激しくそそられた。
凪の股間部へと手を伸ばし、濡れたそれをやんわりと握り込み、扱くようにゆっくりと手を上下させる。
強弱をつけ、揉むように扱き上げると、堪らなそうに凪は顔を反らした。
「んぅ、ん…っ、は…ぁあっ」
シーツに顔を埋め、縛られたままの両手で顔を隠しながら声を上げる。
前 / 次