溺れる小鳥…11

「…いやらしい子ですね、」
 目を眇めてクスッと甘く笑い、指で内部を刺激しながら、凪の性器へと舌を這わせる。
 敏感な亀頭を舌でねぶり、泣き所を指先で擦り上げると、凪は鳴きながら何度も、取ってと繰り返した。
「樋口さ…っ、ぁぅ、ん…ッ!よ、しきさ…」
 想いが通じ合った日以来、通常では耳にする事の無かった呼び方に、樋口の興奮は更に強まる。
 こう云う余裕の無い時にしか、凪はあまりその呼び名を口にしない為、聞き逃すまいと樋口は更に凪の声に聞き入った。
 媚態を食い入るように眺めつつ愛撫を施すと、凪は快感に身体を仰け反らせる。

「しき、さ…ぁ、あッ、ぅうん…っ、し…しがみ、付きたいよぅ…っ」
 鳴き声の合間に告げられた言葉に、樋口の動きがピタリと止まった。
 はあはあと息を乱しながら、こちらを見つめている濡れた瞳に、視線が釘付けになる。
 どうしてそんなに、自分の欲を煽るような言動ばかりするんだと、樋口はいささか困り果てた。
「……もう少しだけ、我慢していて下さい、」
「ぇっ、あッ…ぁあ…ッ!」
 ググッと三本目の指を半ば強引に侵入させ、舐めるだけだった性器を深く咥え込む。
 じっくりと愛撫していたのを止めて、容赦なく三本の指で最感部分を突き上げる。
「芳樹さ、よしき…ッ、んっぁ…あ…っ、ああぁッ」
 顔を動かし、頬をすぼめて一気にきつく吸い上げてやると、凪は甲高い声を上げて呆気なく達した。
 全て奪うかのように更に吸い上げ、やがて惜しむように凪の性器から口を離す。
 だがまだ指は内部に沈めたまま、ゆっくりと動かし続けた。

「あっぁ…あッ、ん…ぁあッ」
 休む間も無く継続する快感に目を瞑って、凪は流石に逃げ腰になり、身体をヒクンヒクンと震わせた。
 そんな凪を、目を細く眇めながら暫し眺め、樋口はゆっくりと指を抜き去る。
「……猛の前で、あんなあられも無い声を上げて、達ったんですか、」
 息を弾ませ、快感の涙を零しながら虚ろな眼差しで暫く放心していた凪だったが、
 樋口の言葉を耳にしてはっと息を呑み、慌ててかぶりを振る。
「ち、違…っ、」  途中からは嘘を吐いたのだと素直に暴露しようとしたが、嘘吐きな自分は
 嫌われてしまうのではないかと考え、凪は続く言葉を見失う。
 どうすれば良いのかと絶望感に苛まれながら悩み続けている凪を見て、樋口はとうとう堪えきれずに笑い出した。

「凪君、ナギ…、悪かった。少し、やり過ぎたか、」
「え…?」
 突然笑い出した樋口と、自分には意味の分からない言葉を耳にし、凪は呆然としながら訊き返す。
 頬を伝っている涙を指で拭い取り、汗でへばりついている前髪を優しく掻き上げてやりながら、樋口は微笑んで見せた。
「猛の野郎に犯されてねぇのは、分かっている。…だが、それをネタに海藤の野郎に脅されていたとはな、」
「ど、どうしてそれを…っ」
 海藤に脅されていた事まで悟られていた事に、凪は驚きで目を丸くした。
 何処まで自分は、凪にとって鈍い男と思われているのか……
 樋口はいささか悩みながらも、汗で濡れている凪の額へキスをする。
「部屋の外で、話は聞いていた。海藤が阿久津に云い掛けていただろう?凪様が、猛の野郎に…ってな、」
 そんな短い言葉だけで察してしまったのかと、凪は鋭い樋口に驚き、瞬きを何度か繰り返す。
 しかし樋口は浮かべていた笑みを急に消して真顔になり、少し怒ったように眉を顰めた。
「凪君が直ぐに、猛には最後までされていないと俺に云って下されば……海藤なんかに脅される事も、無かったんですがね…」
「あ…ご、ごめんなさい、」
 申し訳無さそうに目を伏せ、素直に謝る凪を見下ろしながら、樋口は彼の手首を戒めているネクタイをゆっくりと解き始める。
「海藤だから、まだ良かったものの……質の悪いクズに脅されていたら、どうするんです?」
 小言のような言葉を漏らしてしまう自分に苛立ち、樋口は心中で舌打ちを零した。
 まるで口煩い親のようだと胸中で自嘲し、取り去ったネクタイをシーツの上へと放り投げる。
「まあ…これで海藤の野郎に、もう脅されなくて済みますね、」
 微笑みながら優しい言葉を掛ける樋口を前にし、凪は徐々にその顔を赤らめた。
 これから二度と海藤に、脅される事が無いようにまでしてくれた樋口の優しさに、胸が熱くなる。
 更に、樋口の言葉が、自分を心配してくれているからこそのものだと気付いてしまった。

 どれだけ樋口は自分に優しくしてくれるのだろうかと考え、挙句、心配までしてくれる程に
 強く想われている事を実感した凪は、手を伸ばして樋口の首へしがみついた。

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